それでも、毎日街頭に立って演説をしていると、立ち止まってもらったり、質問をされたりすることも増えていく。街宣と街宣の間には「タウンミーティング」という名前で地域住民とディスカッションを重ねながら、政策集をバージョンアップしていった。

 無名の新人候補を支援すべく、歴史教科書問題、児童館廃止などの問題に関わってきたグループ、環境カフェ、地域の保育士など様々な団体や個人が連なり、ともにアイデアを練った。その中で生まれたのが「サポメンひとり街宣」。岸本さんが街頭宣伝に出ているときは、支援者の誰かが、代わりに駅前で応援演説に立つというスタイルだ。

「(ひとり街宣は)自然発生的に生まれたものです。選挙戦が始まった時、支援者の方々には『無名候補なんだから、とにかく住民に顔を知ってもらうことが大切』と言われていて。そんな状態を見かねて、その中のお一人が『それなら私がポスター持って立っています』と申し出てくださったんです。そうしたら『じゃあ僕も、私も』とスタイルが広がって行きました」

 演説時はマイクを回して聴衆が質問や意見を述べる時間を作るなど、傾聴と対話を大切にした。学生時代、「A SEED JAPAN」で岸本さんと活動したファシリテーターの青木将幸さんは、選挙初日、永福町駅前で岸本さんの演説を聞いた際の印象をこう語る。

「同じ団体で活動していた時代から、さっちゃん(岸本さん)は先輩後輩関係なく、どんな人にも対等に話ができる人でした。聴衆の中には初めてマイクを握る方も多く、初めは戸惑う様子もありましたが、候補者に聞く姿勢があることがわかり、だんだん『この人は話して大丈夫だな』という、安心感のようなものがその場に広がっていきました」

 こうした姿勢の理由を、本人はこう話す。

「選挙では、たとえ誰も聞いていなくても人前で話すという、拷問のようなことを何週間もやらないといけません。今までもレクチャーや会議で話すことはありましたが、目の前には人がいたので、最初は苦痛でした。足を止めて聞いてくださる方が増えていくにつれ、せっかくなので皆さんから質問を出してほしいなと思ったんです。例えば教員なら教育、保育士なら保育、看護士なら医療と、それぞれの分野で話したいことがある。マイクを回していくと、もうなんでもかんでも話題が出てくるんですよね。そうした中で、少しずつスタイルが出来上がっていきました」

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