岸本聡子・杉並区長(撮影・松岡瑛理)
岸本聡子・杉並区長(撮影・松岡瑛理)

 環境NGOでの活動を通じ、「環境的レイシズム(環境的人種差別)」という概念に出会い、衝撃を受けた。有色人種、女性、子どもなど、経済力の弱い社会的マイノリティほど、原子力発電所や軍事基地の近くに住まざるを得ない傾向が高く、汚染や健康の被害も集中しやすいという考え方だ。環境問題を考えるうえで、科学的要因に限らず政治的な力関係への着目が重要だと気づいた経験は「運動を続けた原動力でもあり、その後の政治活動にもつながった」と振り返る。

 01年、長男の出産を機にパートナーの母国であるオランダのアムステルダムに移住。10年代に入り、地域から民主主義を志向する「ミュニシパリズム」と呼ばれる運動がアルゼンチン、スペイン、イタリアなど世界各国で広がる様子を目の当たりにし、地方自治に関心を持つようになった。「外国人」として地域活動に関わることができる範囲への限界を感じていた折、杉並区政の刷新を考える住民らが立ち上げた市民団体「住民思いの杉並区長を作る会」から、区長選出馬の打診を受ける。

「面白いことに、選挙権は3カ月住民票がないと与えられないんですが、立候補は住民票さえあればいつでもできるんです。最初は『杉並区に住んでるわけでもないし、無理無理』と何度も断っていたんですが、支援者の方々がネットで調べて『出られるよ』と教えてくださって。選挙時期もかなり近づいていたので、とりあえず住民票を杉並に移して住み始めたという感じです」

 約20年間の海外生活を経て、暮らし始めたのは東京・西荻窪。駅周辺に個人経営の飲食店や雑貨店が立ち並び、「ニシオギ」の愛称で親しまれる人気のエリアだ。

「うちからちょっと歩くと昔ながらの豆腐屋や肉屋が並んでいて、タイムスリップしたような衝撃を受けました。元々、東京にはあまりいいイメージがなかったんですが、一発で街が好きになりました」

 選挙戦では、区立施設の統廃合や駅前再開発、大規模道路拡幅計画など、住民の合意が得らない計画の抜本的な見直しを訴えた。

「(政策については)私がゼロから考えたわけではありません。住民思いの杉並区長を作る会が何年も議論をしてできていた政策集があり、まずはそこから出発しました。土台があったとはいえ、伝え方は試行錯誤でした。選挙は正解がない世界。何の経験もないから、これはやるべきかことか、正しいことをやっているのか、何もかもがわからないんです」

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