■「人生は70代から」 苦労人・綾小路きみまろがたどり着いた幸福観
もうすぐ72歳になります。ワクチン接種に行くと「高齢者の方はこちら」と書かれた札がある。それを見ながら進んでいる自分も高齢者なんだなと実感している今日このごろです。
私は定年退職のない仕事をしていますから、60代の10年間もブレークしたころと同じようにあっという間に過ぎていきました。だから年を取ったという実感がないんです。でも舞台から離れると、50代のころとは体調が違うなと思うんですね。何が一番違うかというと気力です。
私は70代という年代はラストチャンスだと思っていて、『人生は70代で決まる』という本を5月に出しました。その最後のチャンスを生かすには健康が第一。健康あってこその趣味であり、友達であり、コミュニケーションなわけです。ただし、健康なだけではチャンスは生かせません。前に進むための体力と気力が大切だと思っているんです。
生きがいや趣味を楽しみたくても年を取ると長続きしません。若いときに“老後にこんなことをしよう”と考えていて、実際に年を取ったらできないことがたくさんあるんです。
私は60代で健康を意識してジョギングを始めました。でも70代になってひざが痛くなってやめました。ウォーキングを始めました。諦めました。今度はエアロバイクです。毎日40分漕(こ)いでいます。今度は腰を痛めました。焦らずほどほどに続ける気力と、それができる体力。それがないとチャレンジはできません。
下積み時代から40年、幸福観も変わってきます。下積み時代のころは「満たされてない幸せ」があったんです。「テレビに出てやる」「世に出るぞ」という目標やチャンスを待つ喜びがあったからです。燃えるものがあるということで幸せだったんです。
70代の今は違います。たどり着いた幸せというのでしょうか。新しいチャレンジをするのが難しくなりますよね。だから、手の届く幸せをほどほどに楽しもうと思うんです。
お金では幸せをつかめるとは限らない。70代になるまでの生きざまです。生きざま次第で手が届くものが違ってくるので、60代を大事に生きてほしいですね。(談)
※週刊朝日 2022年8月19・26日合併号