山崎:それはすごいですね。

和田:話した具体的な内容は日記に書かれておらず、その後、すぐに光秀は殺されてしまうので、吉田兼見は光秀の行いを批判する内容に書き直すわけですが、二人がどんなことを話したのかは知りたいところです。

山崎:私が傍観者として見てみたいのは千利休の茶室です。狭い茶室に誰がやってきて何が語られたのか。(秀吉の相談役でもあった)千利休は、茶人というよりは今でいうフィクサーのような存在ですよね。話術も巧みだったでしょうし、彼のもとを訪れる武将たちの一挙手一投足に目を光らせていたはずです。

和田:どんなことを話していたのでしょうね。

山崎:聞かれてはいけないから、茶室という密室にいたのでしょうね。なかで何が起きていたのか、暴きたくなってしまいます。

──歴史を学ぶ醍醐味はなにか。

和田:歴史を知ることで「いろいろな人間がいるな」と思えたことは大きかったです。人間に対する“許し”にもなるし、自分の考えとは異なる人がいても「仕方がないよな」と思える。

山崎:すごくよくわかります。私も、小・中学生という自我が形成されていく時期に、負けたり、逃げたり、失敗したりしている武将たちのかっこ悪い一面に触れることができたことで、失敗することも怖くなくなりました。「最終的に生きていればいいんだ」と思えたことは大きかったです。

和田:なんとなく、人間が練れてきたような気もしますね。

山崎:自分のダメさも許せるし、周囲のクセの強さも「そういうもの」と自然と受け止めることができる。自分の人生に生かそうというよりは、人生のサンプルが増えていくような感覚です。

和田:そうそう、「人生に生かす」のとは違いますね。僕は20代半ばでようやくそう思えるようになりましたが、以前はもっと「こうあらねば」という焦りのような気持ちが強かった。武将たちの生き方を知ったことで、気持ちが随分と変わったような気がしています。

(構成/ライター・古谷ゆう子)

AERA 2023年1月23日号

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