それだけ、実際に社章よろしく「カラーホイール」を襟元に掲げている人だらけだったわけだ。巷を埋め尽くす「カラーホイール」の背後にどれだけの実際の取り組みが実在するのか。この議論で授業が大いに盛り上がった。
もう一人の学生さんから、これまた面白い問題提起があった。そもそも、「持続可能な開発目標」というネーミングは果たして適切なのか。それが、この学生さんの疑問点だった。実は、筆者もかねがねこの疑問を抱いていた。なぜ「開発」にこだわるのか。「開発」はどうしても進め続けなければいけないのか。そこがひっかかっていた。同好の士がいたのでうれしくなり、改めて別のネーミングを考えてみた。すると頭に浮かんだのが「人類存続のための目標群」だ。地球と人類の存続のためには、開発を止める必要が出てくるかもしれない。ひょっとすると、地球存続のためには人類が絶滅しないといけないか? 「カラーホイール」を襟に翳(かざ)して悦に入っている場合ではない。
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
※AERA 2022年8月15-22日合併号