ファイナルでは「世界一好きなピアノ協奏曲第1番。幸せな40分間でした」

 入賞すると世界が変わった。

「ポーランドではサイン攻め。歩いて3秒でせがまれ、信号を待っていると、クルマの窓からサインを頼まれ、もうドライブスルー状態で(笑)」

「ピアノを続ける上で大切なことは何ですか?」とのリスナーの質問に、「圧倒的な信念です。どれだけピアノが好きなのか、好きでいられるのか。あとは、自分はどんな音楽家になりたいのか」

 音楽事務所を作りレーベルも立ち上げ、オーケストラも結成した。次は指揮者を目指す。そのためにウィーンで学びたい。

「クラシックの良さを子どもたちに伝える学校も考えています。今はその実現を逆算してただ歩んでいるのです」

 ショパンコンクールの快挙はその一里塚だった。

 ショパニスト反田がラジオで生演奏したのは「ワルツ第4番ヘ長調作品34-3」と「マズルカ風ロンドヘ長調作品5」

 日本刀を思わせる美しく鋭い切れ味、輪郭を保ちながらも流麗なピアノの音一粒一粒が師走の夕空に解き放たれた。スタジオから外を見ると、反田恭平が奏でるメロディが都心のビル群に降り注ぎ、リンスをかけたように艶(つや)やかに輝かせていた。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2022年1月7・14日合併号

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