そして、これも毎日のように世話になっている近所の豆腐屋も、借金を返し終えたので今年で閉めると宣言している。切り盛りするご夫婦は80代半ばなのだから無理も言えぬ。でもこの店がなくなったら我がクオリティーオブライフはダダ崩れだ。美味(うま)い豆腐や揚げが食べられなくなるだけじゃない。仕事場にしているカフェ帰りに自転車で立ち寄っておっちゃんと「超無駄」な話をするのは日々欠かせぬ儀式で、コロナだろうがなんだろうがそれが続いたことは、正気を保って明るく生きられた最大の要因であった。
まだある。駅前の古い立ち食いソバも、おでん屋も、コロナで世間がごたついているうちに閉店してしまった。これで「電車の帰りに寄りたい店」は完全に消滅。
結局、昭和が消えていく、ということなのだろう。昭和が全部よかったなどとは思わないが、人臭い付き合いが生活に溶け込んでいた最後の時代だったのだと思う。そして、電気も会社も捨てた私が「まちを我が家」として楽しく生きられているのは昭和の名残り香のおかげだったのだ。
かくして、コロナごときではビクともしなかった我が世界が静かに崩壊していく。私はこれからどうやって生きていけば良いのか。深く考えるべき新年の課題である。
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年1月3日-1月10日合併号