そういえば、私がまだテレビの仕事が主だった頃のこと。友達数人でクリスマスに、七面鳥ならぬ雉(きじ)を食べに行った時、閉店間際に店長がやって来てこう言う。
「今日のために仕入れた雉が残ったので、お持ち帰りいただけませんか?」
もちろん生きていて元気なのだ。持ち帰ってどうする?
私と女の友人は辞退したが、成城に住む男の友人はもらっていくことになった。
数日後に会った時、あの雉はどうしたかと真っ先に聞いた。
かつて鶏を飼っていた金網張りの鳥小屋があったので、そこに入れて餌をやっていたが、上手にそばをすりぬけて、天空高く舞いのぼっていったとか。その家は多摩川に近いので、たぶん、河原に棲みかを見付けたに違いないと思うことにした。
聞くところによると、料理用に買って残った雉たちが多摩川で繁殖しているとか。
人間の欲望の残滓が身を寄せあって力強く生きている。なんともたくましい。と共に、人間中心の生活に反省しきりである。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年1月7・14日合併号