下重暁子・作家
下重暁子・作家
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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、鳥について。

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 午前十一時頃に、ブランチを取る。朝が遅いので朝昼兼用、リビングに続くヴェランダで。マンションの三階なので日はさんさん、まさに至福の刻である。晴れていれば目の前の大木の黒々とした枝ぶりや、散りかけた紅葉をながめながら……。

 遠くに東京タワーが見える。都心だが緑に囲まれた台地なので、まるで木の間に棲んでいる鳥になった気分。真冬でも上衣なしで日だまりにいる。

 時折、鳥たちが群れをなして樹々の梢を通り越していく。鳩や鴉(からす)は日常茶飯事だが、一本の樹に何十羽と集ってお喋りがうるさいのがムクドリ。コガラ、ヒガラ、シジュウカラなどカラ類も多い。

 おや、あれは見馴れぬ鳥! 鮮やかな緑色や黄緑の尻尾の長い鳥が十羽位、右から左へ梢を抜けていく。

 おめでたい瑞鳥の訪れだろうか。いやまてよ、どこかで見たことがある。そう、あのむっくり丸い頭はインコに似ている。

 飼われていたインコが野生化して群れを作っているのは、見たことがあるが、確か色は青だったと思う。それに大きい。

 尻尾まで入れると全長四十センチ近くありそうだ。普通のインコは全長十五センチほどだから、最近流行の大型インコだろうか。先日テレビで見たのは、ワカケホンセイインコとかいう名だった。

 こんな大型の鳥がどこに棲んでいるのだろうか。食物は植物だということは、多摩川の河川敷あたり、天敵の少ないところだろう。川崎あたりでよく見かけるという。

 私の目前を横切ったのもこの種類のようだ。まだ東京に田園地帯が残っていた頃、祖父母の家ではインコを始め、鶯(うぐいす)など様々な鳥を飼っていた。数も多かったので、世話だけでもたいへんだった。

 飼われていた鳥たちの野生化は今にはじまったことではない。カゴの中でとらわれているから、一度自由の味を知ったら大空を駈けめぐりたいに決まっている。

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下重暁子

下重暁子

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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