あれから2年目の冬。今はホールケーキの注文販売と、クッキーなどのお菓子を店頭で販売している。口コミでの広がりやメディアにも取り上げられるなど、店は好評だ。
ただ、みずきさんの居場所ができたことがゴールではない。
工房の調理場でも、不安要素があるとみずきさんが固まってしまうことがある。家のそばにある自動販売機まで一人で歩き、ジュースを買えるようになったのも最近のことだ。通学もそうだが、状態と向き合いながらの日々は変わらない。
それでも千里さんは思う。
「みずきに、母である私が学ばせてもらったんです。以前は障害が治らないかな、よくならないかなって、そればかり考えていました。ただ、当事者のみずきは場面緘黙をマイナスだと思っていなくて、それが『普通の自分』なんです。緘黙のみずきがいなかったら、パティシエのみずきも存在しなかったということ。言葉を出せず誰ともコミュニケーションが取れない、とマイナスに思いがちでしたが、みずきは、みずきらしく飾らないありのままの自分で人生を楽しんでいるんです。みずきの場合は、緘黙を治すというより、環境を整えて『共存』していけばいい。そう考えるようになりました」
店も、実はまだ赤字。どうすれば軌道に乗せられるか、答えはまったく見えていない。
「親がいなくなっても、みずきがお店を続けて生きていくにはどうしたらいいのか。悩みの尽きない毎日ですが、真っ暗闇にいたころを考えると、道は開けていると感じています」
教室で目に涙をためて固まり続けた「何もできひん子」が見つけた居場所。家族とみずきさんは障害と共に生きることを模索しながら、これからも歩みを続ける。(AERA dot.編集部・國府田英之)