「みいちゃんのお菓子工房」に並ぶケーキの数々(画像=千里さん提供)
「みいちゃんのお菓子工房」に並ぶケーキの数々(画像=千里さん提供)

 自閉症の特性に一つのことをやり続ける「強いこだわり」があるとされているが、「みずきはお菓子作りにその特性がでたのかもしれません」(千里さん)

 インスタグラムで反響が広がったため、試しに販売してみようかと近くの施設を借りて不定期にカフェを開くと、口コミでその評判が広がり行列ができるようになった。その調理場では、みずきさんは自由に動けたのだ。

「商品が売れなかったとき、みずきはなぜ売れないかを自分で考えるようになりました。自分の意見をしっかり持っているので、母親のアドバイスはぜんぜん聞きません(笑)。その姿は立派なクリエイターでした」

 学校にも少しずつ通うようになったみずきさん。小学6年生の夏ごろ、千里さんがみずきさんのインスタグラムを見ると、こう書かれていた。

「いつか自分の店を持ちたい」

 学校でも、作業所の就労体験でも固まってしまった娘が、お菓子作りの空間では生き生きと活動している。自分の居場所が欲しいという、娘のサインかもしれない。

 子供にかける将来の学費を考えたら…と、家族は動いた。近所に住む祖父母の敷地内に店舗兼工房を建て、2020年の1月にプレオープンにこぎつけた。

「不安はありました」。千里さんは当時を振り返る。

 小さな娘を無理やり働かせていると思われてしまわないか、お金目的に見られてしまわないか……。それでも、そこにしか出口が見えず意を決した。

「真っ暗闇の中で、私たち家族は小さな小さな穴をやっと見つけて、そこから道を作ろうと思ったんです。もし批判されたとしても、みずきに道ができることと比べたら、ささいなことだなって」

みずきさんがつくったシュークリーム(画像=千里さん提供)
みずきさんがつくったシュークリーム(画像=千里さん提供)

 プレオープン当日は、店の前に大行列。うわさを聞いてやってきた小学生たちも、親も祖父母も、3世代が店に来て温かい言葉をかけてくる。

「本当に驚きました。小学生でもこうして、お店をやっていいんだって」

 母が抱いた不安は、一つの気づきに変わった。

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もう「真っ暗闇」の中ではない