1960年代後半、子どもたちを夢中にした伝説の名作「サンダーバード」が、55年の時を経て映画で復活する。「ウルトラセブン」などにも影響を与えたこの作品を、あえてCGを駆使せず当時の手法で撮影した野心作。そこに込められた制作者の熱い思いとは。
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「偶然飲み屋で目にして、『俺の知らないサンダーバードがあったの!?』と驚きました」
初見時の衝撃をこう語るのは、平成「ガメラ」シリーズや「シン・ゴジラ」など数々の特撮映画で監督や特技監督を務め、2022年5月公開予定の「シン・ウルトラマン」でも監督を務める樋口真嗣さん(56)だ。
「全話を何度も見ているはずなのに記憶にない。実は見ていない話があったのかと、足元が揺らぐほどでした」
驚いて店主にたずねると、本国イギリスでクラウドファンディングにより制作された“新作”で、映像は寄付の返礼に送られたDVDだったという──。
「5、4、3、2、1、Thunderbirds are go!」の掛け声で始まる勇壮なテーマ曲とともに、災害や事故でピンチに陥った人々を救う「国際救助隊」の活躍を描く「サンダーバード」。イギリスの映像プロデューサー、ジェリー・アンダーソンが生み出した「スーパーマリオネーション」と呼ばれる特撮人形劇と、サンダーバード1号から5号やジェットモグラなどのメカの魅力で、1965年の英国での放送開始以来、世界中のファンを熱狂させた。日本では翌66年からNHKで放送が始まり、少年だった樋口さんも夢中になった。
「駄菓子屋でポリ袋に入っているような簡易なプラモデルも身近な存在でした。イラストレーターの小松崎茂さんによるパッケージアートや雑誌の図解グラビアを、食い入るように眺めていた。現代のように録画や配信のない時代。おもちゃや周辺のメディアで紹介されたすべてを含め、サンダーバードというコンテンツとして吸収していた気がします」