法律資格や公務員試験の受験予備校・伊藤塾で司法試験教務企画課リーダーを務める奈良大輔さんが言う。
「慶應大で法曹を志す人は、刺激を受けたり助け合ったりして連帯する風潮が強いと思います。また、付属高校からの内部進学者が早い段階で勉強をスタートさせているのも特徴です。大学入試のストレスや疲弊がない分、早く勉強を始めやすいということもあるでしょう。大学入学前後の2~5月には予備試験の勉強を始めているため、大学の法学の講義が復習的な位置づけとなり、授業がわかりやすく、楽しくなる。合格へ向けて好循環が生まれます。慶應大の法科大学院には他大学から入学する人が8割程度いますが、外部から入った学生たちは、大学時代から続くその『学び合いの伝統』に大いに刺激を受けるようです。お互いに教え合うことで合格率も高まるのでしょう」
在学中に予備試験に合格した学生数をまとめた「令和2年司法試験予備試験受験状況(大学生)」(文部科学省)を見ると、慶應大は43人の合格者を出していて、1位の東京大(81人)に次ぐ。さらに大学2年生時点の合格者だけに絞れば、14人の東京大に対し、慶應大は16人でトップに立つ。この数字は、奈良さんが指摘する「スタートダッシュの早さ」が影響した結果と見ることもできる。
■東大4位「低迷」ではない 数字のカラクリ
なぜ慶應大の内部進学者は司法試験の勉強に積極的なのか。奈良さんが続ける。
「先輩後輩の結びつきが強いこともあるでしょう。内部進学者が母校の部活で後輩を教える風潮があり、そこで高校生が、在学中に司法試験に挑戦する先輩を目にします。また慶應義塾高等学校は法学入門という選択授業を開いたり、慶應義塾志木高等学校では弁護士として活躍する卒業生を招いて講演会を開いたりしているようです。学生が法曹に関する情報に触れるのが早く、そのため司法試験への一歩を踏み出しやすいのだと思います」
合格者数ランキングで他に目を引くのが東京大だ。合格者数は96人で、法科大学院の設立後初めて100人を切り、4位となった。
ただし、これを東京大の低迷と読み解くのは早計だ。奈良さんは「数字のカラクリ」があると説明する。