東京・台場のフジテレビ。刻一刻と変わりゆく時事トピックについて、丁寧に、わかりやすく伝えるために、スタッフ・共演者と打ち合わせを重ねて生放送本番に臨む。これまでもМCの経験を重ねてきた谷原だが、生活に直結した情報、時によっては生命にも関わる情報を届けるという点で、「めざまし8」に毎朝挑む谷原の思いは強い(撮影/篠塚ようこ)
東京・台場のフジテレビ。刻一刻と変わりゆく時事トピックについて、丁寧に、わかりやすく伝えるために、スタッフ・共演者と打ち合わせを重ねて生放送本番に臨む。これまでもМCの経験を重ねてきた谷原だが、生活に直結した情報、時によっては生命にも関わる情報を届けるという点で、「めざまし8」に毎朝挑む谷原の思いは強い(撮影/篠塚ようこ)

ブランチのMCとして
映画も小説も調べ上げる

 思い起こすのは、こんな回のことだ。2019年12月、姫野カオルコの小説『彼女は頭が悪いから』を紹介した。同書は、東大生らが実際に起こした性的暴行事件をモチーフにしている。谷原はこう話した。

「本を紹介することで、実際の被害者はもう一回嫌な思いをするかもしれない。余計なお世話かもしれませんが、僕は『あなたは何も悪くない』って本当に思う。心情を慮(おもんぱか)ることしか僕にはできませんが、事件は実際にこの日本社会の中で起きたのだということを大人の一員として重く受け止めないといけない」

 さらにコラムにはこう記した。

「僕には男三人、女三人の子供がいます。自身の子供を育てていく上で、女の子の社会的な不利益について日々実感し、いっぽうで男の子が女性を無意識に蹂躙(じゅうりん)したり、馬鹿にしたり、大事にしなかったりするようになることへの怖さを強く感じています」

「子供たちはどうか心の偏差値も上げておいてほしい。子供たちを社会全体で見守り、時に叱り、そして褒める。そうすればその子たちの心の種を大きく育てることになると思います。大人を見て子供は育ちます。今はとにかく、僕ら大人が見せている背中が、横顔がカッコ悪過ぎるのではないでしょうか」(「好書好日」谷原書店から)

 思いを凝縮させたこの回は、コラムが始まって以来、最大の反響を呼んだ。親として、この社会に生きる一員として、率直で真摯(しんし)な憤り。谷原をもっと知りたい。そう思った。

 約10年にわたってTBSテレビの情報番組「王様のブランチ」を担当した谷原は現在、「めざまし8」以外にも、生放送の歌番組「うたコン」(NHK)のMCを担っている。名実ともに「名司会者」と呼ばれる存在になった。

「ブランチ」MCを務めた34歳から44歳の10年間、彼は紹介する映画や音楽、小説をほぼすべて調べ上げた。その準備や週末の本放送に時間をとられ、本業の芝居に全力で向き合えず、負い目があったと谷原は振り返る。

「役者として僕は、大きな仕事がしづらくなりました。スケジュールが駄目なせいで、できなかった作品がいくつもありました」

 いっぽうで、MCとして腕を磨いたのも事実だ。

「人生は何かを得れば何かを失う。僕は今が良い」

(文・加賀直樹)

※記事の続きはAERA 2022年1月3日―1月10日号でご覧いただけます。

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