俳優、谷原章介。テレビを通して感じるイメージは「華麗でさわやか」。だけど実像はそれだけではないようだ。器用にそつなくこなす一方、挫折感も味わったし、人と比べて落ち込んだこともある。50歳を前に、「人生は何かを得れば何かを失う。僕は今が良い」と語る。一人の社会人として、一人の親として、いつも目の前のことに率直な気持ちで向き合っている。
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「事故に巻き込まれた瞬間、その船は走り去ったといいますけれど……」
2021年9月15日、朝。谷原章介(たにはらしょうすけ)(49)は、フジテレビの情報番組「めざまし8」で、話を切り出した。福島県猪苗代湖で起きたボートひき逃げ事故を報じる場面のことだ。この事故では、8歳の男児が死亡し、1年後、この報道の前日に容疑者が逮捕された。画面中央に映し出された谷原は、言葉をつないだ。
「ご家族の方が、その子を、どのようにね……」
ここまで語りかけたところで、谷原は言葉を詰まらせた。スタジオ内には重い空気が漂い、コメンテーターらも全員、押し黙って谷原を見守った。じつに約6秒間にわたる沈黙ののち、彼は絞り出すように言葉を発した。
「……抱いたのかと思うと、言葉がないですね」
MCの思いがかくも強く、ダイレクトに伝わる報道を、筆者は久々に見た。
午前4時に谷原は目を覚まし、1時間後には東京・台場のスタジオに駆けこむ。こんな毎日を今春から続けている。
「コロナ情勢に関わる報道では、医療逼迫(ひっぱく)と経済維持の双方が天秤にかけられ、情報を浴び続ける視聴者の皆さんが疲れると思うんです。『で、私はいったい、どうしたらいいの?』って」
光差す灯台のように、一つの拠り所として視聴者に捉えてほしい。スタッフと重ねた議論の糧をいかに共有してもらうか。この一点に心血を注ぐ。
筆者は、谷原が朝日新聞社のウェブサイト「好書好日」で連載中の「谷原書店」の構成を担当している。毎月1冊ずつ、彼自身が選んだ推薦図書を紹介するコラムだ。連載開始から4年、谷原に対して感じていた人物像は変わっていった。これまでは華麗でさわやかなイメージ。たしかにそうだが、それだけではない。曲がったことが嫌いで、無骨で、他者を思う粗削りの愛に満ちた男──。