荒川:人に会うことも大切ですよね。コロナ禍で難しいことですが、外に出て背筋を伸ばす瞬間は、健康や生活を支えてくれているなと思います。
池谷:おっしゃる通りです。たとえ運動ができなくても、買い物や散歩に出るとき、おなかを意識的にぐっと凹ませて、背筋を伸ばして歩く。それだけで筋力アップにつながり、その瞬間に見た目も変わります。
私の専門分野でいうと、若々しくいるには、血管を若く保つことも大切なんです。人間の血管は、桜の樹に似ています。大動脈という太い血管が幹、手足が枝で、血管が行きわたる末端が花の咲く部分。加齢で幹と枝は老いていきますが、生活習慣の改善で樹齢100年の桜に花が咲くように、末端を「ひらく」ことができるんです。
■イナバウアー体操を
荒川:どう改善すればいいんですか?
池谷:動物性油を控えて魚に含まれる「オメガ3」という油をとったり、糖質を控えるなど食生活の改善や運動によって、血管は若返らせることができます。
運動も有効です。たとえば、イナバウアー体操はどうでしょう。体を縮めて力を入れて20秒ほど収縮させ、一気に体をひらき、血流を開放する運動です。できるなら、さらに体を反らせてもOKです。
再開した血流が血管の内側の壁を刺激し、NO(一酸化窒素)という血管拡張作用を持つ物質が出ます。これが全身を流れ、血管がしなやかに広がる。血管の内側が老化で傷つくと動脈硬化の原因にもなるのですが、NOにはそれを防ぐ効果もあります。毎日3回ほど繰り返せば、見た目も含めて若返り効果が期待できますよ。
荒川:血管年齢を意識したのは初めてです。ぜひ試してみます。
私には週に5日のスケートがあって、その習慣をバロメーターに体の変化を把握しやすいんです。ただ、この先もしもスケートから離れたとき、何をバロメーターにするか。スケートが健康への「最後の命綱」みたいな面もあるので、そこをどう見直すか。今日はたくさんの気づきが得られました。
池谷:荒川さんはトップアスリートですが、見られる意識や簡単な体操なら、誰でも挑戦できます。私の患者さんは若々しい人が多いんです。ぜひ、考える機会にしてみてください。
(構成/編集部・小長光哲郎)
※AERA 2022年1月17日号