市川海老蔵さん (撮影/写真部・松永卓也)
市川海老蔵さん (撮影/写真部・松永卓也)
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 厚い煙で覆われて空が見えない「えんとつ町」。少年ルビッチは「煙の向こうに星がある」という亡き父の言葉を信じ、友達のゴミ人間、プペルとともに星を探しに行く。キングコングの西野亮廣が手がけ、映画化もされた絵本『えんとつ町のプペル』が歌舞伎に生まれ変わった。市川海老蔵が愛娘、愛息子と共演する舞台には、5年前に亡くなった妻の麻央さんへの思いも込められている。

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──プペルの歌舞伎化にいたった経緯は?

 映画館に3回足を運ぶほど、親子でプペルの物語に感動したんです。やはり「信じることの大切さ」という今の日本に必要なテーマを描いているのが素晴らしい。何かを信じるって誰も邪魔してはいけない領域なのに、なぜか周りが「おかしいんじゃない?」と邪魔することはよくあります。

 子どもたちとは、「人がなんと言おうと自分が信じたことをやりきるのは美しい」という会話をしました。二人ともニュアンスを汲みとったようで、「この作品で何かしてみたいね」って口にして。

 私もこれは歌舞伎になるかもしれないと思ったので、すぐ原作の西野(亮廣)さんに直談判しました。「一緒に仕事をしたい」とお伝えして、お会いしたその日のうちに「ぜひ」と。

 もう、恋愛的なスピード感ですよね。舞台が決まったって二人に伝えたら、「うぎゃー」って大喜びしてました(笑)。

 これからの歌舞伎について考えたとき、この作品のテーマとも被るところがあると思うのです。既存の歌舞伎は伝統文化として貴重で大事ですけれど、そこに甘んじて何もしないのは正しいのかと自問自答しています。だから、最初は「え?」って思われるような新しい試みが、一つの突破口になればいいなと。可能性に賭けてみたいんです。

──脚本も担当された西野さんは「主人公達の物語と海老蔵親子が背負った物語は、あまりにも重なる部分が多い」と。

 私はプペルと、ルビッチの父親の八(原作ではブルーノ)を演じますが、うちの家庭で言うと熊八は麻央なのかなと。子どもに大きな魂みたいなものを残した熊八が妻で、その魂を受け継いで寄り添うプペルが私。そして子どもたちとパパとママが一緒に煙を晴らして星空を見る、という形になればなと。麻央のことを思い出しながら熊八を演じるつもりです。

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