南海トラフでは広範囲なプレート接触面の周辺域に、スロー地震が発見されている。通常の地震はひずみの解放が1秒間に約1メートルの速度だが、スロー地震は「ひずみを解放する速度が遅く、ゆっくりと滑る」(加藤さん)。
こうしたことがわかってきた背景には、観測機材の整備がある。微弱な揺れもわかる高感度地震観測網は2000年に運用を開始した。加藤さんによると、全国均一に20~30キロメートル間隔、深さ100~200メートルくらいにセンサーを設置。日本全体で700~800カ所の観測網がある。
このほか、全国強震観測網や、東北沖の日本海溝海底地震津波観測網、南海トラフ域の海底地震津波観測網、基盤的火山観測網がある。このような全国の観測網は陸海統合地震津波火山観測網(モウラス)と呼ぶ。モウラスがスロー地震の発見につながった。
スロー地震はどのように役立てられるのか。たとえば、東日本大震災ではスロー地震が「本震の発生域で少し前に発生していた」(伊藤さん)。スロー地震を観測し、「プレートのどこに力がかかっているのか、起きている場所や時間をきちんと理解することが大切」と伊藤さんはいう。
一方、スロー地震周辺で地震発生の可能性はあるが、「どれぐらいの力がかかれば地震が起きるのか、まだわからない」と伊藤さんは話す。東大地震研の加藤さんも「スロー地震発見からまだ20年で、パターンや規模がわかったとしても、大地震につながるのか、なかなかわからない」という。伊藤さんは「スロー地震が起きて、必ずしも巨大地震が起こるわけでないが、可能性はあり、普段よりも気をつけることが大切」と話す。
地震計データはさまざまなノイズがある。「地震計データは人の動きや、付近の大きな木の振動、近くの川の流れや滝、工場のモーター音や出入りの車まで記録する」と、京大防災研の伊藤さんは話す。こうしたノイズから有用な情報を見つけ、スロー地震以外にも、防災に役立てる研究が進められている。