撮影:西野嘉憲
撮影:西野嘉憲

■猟師の「試験」に合格

 そんな勇猛な猟師たちが暮すのは、飛騨市の山之村集落。標高約900メートル。かつては「秘境」と言われ、昭和30年代まで1年のうち約半年間は雪に閉ざされ、ふもとの町とは行き来ができなかったという。

「自然環境の厳しさはいまでも変わらない。そんな場所で自然と一体になって生活している人たちにもすごく興味がありました。そして、風景の美しさ。古きよき時代の山村風景が残っている。それがここで写真を撮ろうと思った決め手でもありますね。あと、山之村のクマ猟はまだ誰も、研究者や取材者が調べていなかった。それもここで取材しようと思った要素です」

 ちなみに、取材者にとって、「どこで」「誰を」対象とするかはとても重要で、特に西野さんのように長期間にわたる取材では、「ほんとうに運命の分かれ道になる」。

「ほかの狩猟もそうですが、このクマ猟の現場も禁忌的というか、取材者はもちろん、仲間内でも限られた人にしかいちばん大切なことは教えないようなところがある。ましてや、獲物を殺しているところは、あまり人に見せるものじゃない、という気持ちがあると思います」

 幸いなことに、当時、山之村には知り合いのライターが移住していて、「その方がある程度、取材の趣旨などを猟師さんに話してくださって、すごく助かりました」。

 それでも、実際の狩猟の現場に連れて行ってもらう前には「試験」があったという。

「最初はしぶしぶ、知り合いの紹介だし、連れていくしかねえか、みたいな雰囲気で、2回くらい猟師さんと山を歩いたんです。そのときは気づかなかったんですけれど、そこはもう、めちゃくちゃ簡単な、猟場といえるかどうかも分からないような近場で、後から考えたら、『こいつ、どの程度歩けるかな』と、見られていた」

 クマは賢い動物で、狩猟者に見つからないように、かなりの奥山で冬眠するという。

「だから、猟場にたどり着くだけでも3、4時間はかかる。そこで、『もし、同行者が歩けなくなったら、置いて帰るしかないんだよ』と、後で言われて、ああ、そうなんだ、と思いましたね」

撮影:西野嘉憲
撮影:西野嘉憲

■「あっちの尾根があついぞ」

 クマの狩猟期間は11月15日から2月15日まで。西野さんは2008年から17年にかけて、計8シーズンのクマ猟を取材した。

「豪雪地帯の厳寒期なので、『かんじき』を履いても膝まで雪にもぐるのは当たり前。いったんふぶくと視界もきかない。そんな山を迷わずに1日中歩きまわれるというのは、すごいと思いますね。この方たちはGPSとか持っていかないですから。尾根をいくつも越えたら、もう自分1人じゃあ、帰って来られないです(笑)」

 この時期、クマは太い木や岩にあいた穴の中にこもっている。

「そういう穴が山のなかにたくさんあるんです。ある程度は目星をつけるんですけれど、その穴を一つひとつのぞいて、しらみつぶしに探していく。それを猟期の間、ひたすら繰り返すんです」

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