「スタンフォード大学のある研究によると、30分間早歩きをしてから発想力テストを受けたチームと、ただ座ってテストを受けたチームでは、前者の方が60%も成績が良かったという結果があります」
実際、スウェーデンの企業「Spotify」では、雨の日でも体を動かしながらブレストできるよう、会議室にランニングマシンが設置されているという。
とはいえ、運動の重要性を理解しながらも、なかなか実行に移せないのが常だ。「明日にしよう」と、先延ばしの誘惑に負けてしまう。
「それは、人間の進化の過程を考えても自然なことです」とハンセンさんは言う。
「脳の一番大切な役割は、どんな状況のなかでも生き延びることができるようにしていくこと。飢餓の可能性を恐れ、無駄にエネルギーを使うことを避けてきた。だからカロリーを消費したくない、ソファに寝転がっていたい、と考えることは、脳の判断としては正しいと言えるんですね」
そのうえでハンセンさんがおすすめするのは、日常生活のなかに何げなく運動を取り入れていくことだ。毎晩、歯を磨く際に自問しないのと同じように、職場まで歩き、エレベーターではなく階段を使うことを習慣化してみる。
「脳の働きを知れば、おかしいと思う行動にも説明がつく。脳に関する知見を研究の分野に留めるのはもったいない」
そうハンセンさんは言う。受験生にも、ステイホームでアイデアが煮詰まることの多いビジネスパーソンにも、有益な情報が詰まった一冊だ。(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年1月17日号