台本通りであっても、その台本が十分練り上げたものならともかく、おざなりの表現ばかりでは話にならない。
その意味で、今の紅白は、プロデューサーやディレクターの腕の見せ所ではなく、出演者におんぶにだっこ。もっと言えば、力の強いプロダクションが牛耳っているともいえる。
私の先輩や同期のプロデューサーらには、思想があった。紅白全体に一つのイメージを描き、そこに音楽や歌手をはめこむ。林叡作、井上省など音楽のプロが携わっていた。プラスして、社会性もあった。
寒さの中で働いている人たちの仕事の現場から中継したり、歌手を事件の現場に連れていったり。人々を番組の中に取り込んで親近感が持てた。
プロと素人が混然として他の番組にはない魅力となり、番組を通してのテーマ性も秘めていた。もう一度新しい紅白にするには原点にもどり、歴史に学ぶべきだろう。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年1月28日号