下重暁子・作家
下重暁子・作家
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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、年末の紅白歌合戦について。

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 NHK紅白歌合戦が揺れている。今までにない低視聴率。若者中心の構成であり、日本国中の高齢者も子供も一緒になって楽しむ年中行事としての番組ではなくなってきた。

 時代の移り変わりと共に番組内容が変わることは当然だが、「紅白」と「ゆく年くる年」は新しい年を迎える区切りだった。老いも若きも、紅白のトリの歌で盛り上がり、全員で「蛍の光」を歌い、十一時四十五分、場面が切り換わると「ゴーン」という除夜の鐘と共に年が改まる。そのなんともいえない一瞬の間を長年愛してきた。

 その時を見たくて、紅白もチラチラと見ていたが、さすがに今回は十一時三十分頃からにした。馴染みの歌手や歌が極端に減って、辞退する大物歌手が相次いだ。安室奈美恵の引退ドラマのように盛り上がるものは少なく、司会者はそろって、「感動的ですね」とか「素晴らしい」のオンパレード。いつからこんなに表現が貧困になってしまったのだろうか。意表をつく舞台装置の新しさや、それを支える裏方さんの努力が虚しい。もっともNHKホールが使えなかったという理由もあるのだが。

 そもそも紅白は戦後の一九四五年、「紅白音楽試合」という番組名でラジオ放送され、大好評。しばらく間があいて一九五一年、正月番組として第一回NHK紅白歌合戦が始まった。紅白とは男と女と考えずにおめでたいものと考えれば正月にふさわしい。性差別も解消する。

 第四回は一九五三年十二月三十一日。テレビ本放送が始まり、このときから大晦日に時間帯が移った。第一回では藤山一郎と渡辺はま子がキャプテンを務めたが、その後、宮田輝、高橋圭三といったスターアナが司会を務めた。

 この二人はアドリブの応酬、丁々発止の言葉の面白さで人々を引きつけた。

 最近は、台本通りにセリフを憶えたタレントが司会を務めるから面白くなるわけがない。

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