インスタの国内のアクティブユーザーは約3300万人で、若者たちは「インスタ映え」に熱中する。だが、SNSは「両刃の剣」ということも忘れてはいけない ※写真はイメージです(GettyImages)
インスタの国内のアクティブユーザーは約3300万人で、若者たちは「インスタ映え」に熱中する。だが、SNSは「両刃の剣」ということも忘れてはいけない ※写真はイメージです(GettyImages)

 インスタグラムは、自分の投稿に反応してもらえることで承認欲求を満たすことができる。しかし同時に無意識に他人と比較してしまい、ストレスを感じるという意見も少なくない。AERA 2022年1月24日号の記事を紹介する。

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 写真投稿アプリのインスタグラム(インスタ)を巡っては今、若者たちに与える悪影響が問題となっている。

 2021年10月、フェイスブック(FB、現メタ)の元社員フランシス・ホーゲン氏の米議会上院公聴会での証言が注目を集めた。ホーゲン氏は、インスタは他のSNSより危険で「若者への心理的な悪影響を知りながら公表しなかった」などと証言。同氏の内部告発をもとに米メディアが、「ティーンエージの女子の32%は自分の体形に不満を感じている時にインスタグラムを見ると、さらに自己嫌悪感が強まる」とするFB社内の調査結果などを報道した。

「この調査結果にはうなずける点があります。私も、インスタをやっていたときは常に自己嫌悪でいっぱいでした」

 と話すのは、北海道の理系大学院生のマラソンソラマさん(20代前半)だ。

 大学入学後、なかなか友だちができなかった。一方でインスタを開けば、仲間と楽しそうにサークル活動をしたり旅行に行ったりする旧友たちの姿が毎日のように目に入ってきた。暗い淡々とした自分と、キラキラ輝く旧友たちの大学生活。インスタを開くたび、旧友を羨(うらや)む気持ちがどんどん強くなった。

「インスタを見るとどうしても心の中の“比較スイッチ”なるものが起動し、たとえ今の生活に不満がなくても、自分よりよい生活を送っている人を見て『羨ましい!』と感じました」

 他人を羨む気持ちから解放されたい──。

「インスタ断ち」を決意し、アプリを削除した。するとその瞬間、「隣の芝を羨んでいる場合じゃない」とハッとさせられ、ぼやけていた自分の人生にスポットライトが当たるようになったという。

「インスタをやめて一番良かったのは、他人を羨む機会が完全に消滅し、自分がやるべき目の前のタスクに集中できるようになったことです。感受性も少しずつ戻ってきて、読書をしていて今までなら何げなく見過ごしていた文章も『瑞々(みずみず)しいな』と感動できるようになり、野菜の美味しさまで敏感に味わえるようになりました」(マラソンソラマさん)

■プチ断ちもオススメ

 インスタ断ちした人たちは、少しは後悔しているのかと思いきや、一様に「前より幸せを感じる」と声を揃(そろ)える。誰かと比較することも、何かに追われることもなく、目の前のことに集中でき時間を有効に使える。いかに、インスタに毒されていたかに気がつく、と。

 とは言え、インスタはもはや生活の一部になり手放せない存在という人は少なくない。ファッションと同様に自分のアイデンティティーを表現する場であったり、発信することで自分の夢を叶えている人もいる。そこで、そんな人におススメなのが、期間限定の「プチ断ち」だ。

「1週間でしたが、インスタのない生活は新鮮でした」

 と話すのは、埼玉県に暮らす自営業の女性(30)。

 仕事でインスタを5年近く使っていて、もはやインスタはなくてはならないツール。だが最近、インスタを見ていると疲れることが多くなった。そこで、インスタのアカウントを一時停止し1週間だけ断つことにした。

 ブログで「インスタなし生活に入ります」と宣言して、いざ突入。禁断症状が出たのは最初の数時間だけ。無意識のうちにインスタを開いたことがあったが、じきにインスタのない生活に心地よさを覚えた。

「心が軽くなりました」

 インスタにアップするための「投稿写真」に気を使うことはないし、撮った後の「加工」に時間をかけることもなくなった。「いいね」やコメントされた返事もしなくていい。

■月を眺めるだけで幸せ

 そもそもスマホを見る時間が減ったので、外に出れば、信号待ちの数分さえヒマに感じ、いかにインスタに侵食されていたかを痛感。ランチは「映え」を気にせず、肉うどんを食べることができた。電車に乗った時は、音楽を聴いたり外を眺めたりすると、頭の中が整理された。

 仕事で必要なのでインスタ断ちは1週間で終了したが、今は必要以上にインスタを見ることはなくなった。これからも、しんどくなったら数日でもインスタから離れるつもりと話す。

「月を眺めているだけで、幸せって感じました。でも、それが、以前の日常だったのですね」

 としみじみつぶやいた。(編集部・野村昌二)

>>【前編はこちら】中毒だった若者がなぜ? 増加する「インスタ断ち」のメリット

AERA 2022年1月24日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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