
道が留学したブリンマー女子大学では、上級生が下級生にランタンを手渡す伝統があった。暗い講堂が光の海になるほどの灯火──それは継承される、シスターフッドの形でもあるだろう。「偉大なる普通の人」である道を書くにあたって、柚木さんは美化しすぎないことを心がけた。
「戦争中、多くのミッションスクールが戦争協力をしました。道は特高に捕まっていますが、例外ではありません。神職の娘であった道が天皇制をどう考えていたのかなど、考えるべき点もある。ただ、批判し断罪するだけではなく、時代的な背景を含めて、道の葛藤を書こうと努めました」
励ましになったのは、道が自伝について残した「自分の仕事は完璧でなくても、後の人がもっと面白く書くだろう」という言葉だったそう。
「山川菊栄は道のことを『理想主義者だ』と、痛烈に批判しています。実際、そういう部分もあったと思うけれど、彼女くらい明るくポジティブな人がいないと、できなかったこともある。たとえば菊栄は道に連れていかれて、初めて貧困層の現実を知ったんですよね」
あとに続く誰かのために、ランタンの火を守り、手渡すこと。読むとその灯火が、読者の胸にも残るだろう。(ライター・矢内裕子)
※AERA 2022年1月24日号