『らんたん』(1980円〈税込み〉/小学館) 大正最後の年。天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児は、渡辺ゆりに求婚する。ゆりが出した結婚の条件は「シスターフッドの契りを結ぶ河井道と3人で暮らす」という前代未聞のものだった。新渡戸稲造、津田梅子、平塚らいてう、山川菊栄など、錚々たる人物と関わりながら、道は理想の女学校の創立をめざす。近代日本を舞台に描かれる「女子大河小説」だ

 道が留学したブリンマー女子大学では、上級生が下級生にランタンを手渡す伝統があった。暗い講堂が光の海になるほどの灯火──それは継承される、シスターフッドの形でもあるだろう。「偉大なる普通の人」である道を書くにあたって、柚木さんは美化しすぎないことを心がけた。

「戦争中、多くのミッションスクールが戦争協力をしました。道は特高に捕まっていますが、例外ではありません。神職の娘であった道が天皇制をどう考えていたのかなど、考えるべき点もある。ただ、批判し断罪するだけではなく、時代的な背景を含めて、道の葛藤を書こうと努めました」

 励ましになったのは、道が自伝について残した「自分の仕事は完璧でなくても、後の人がもっと面白く書くだろう」という言葉だったそう。

「山川菊栄は道のことを『理想主義者だ』と、痛烈に批判しています。実際、そういう部分もあったと思うけれど、彼女くらい明るくポジティブな人がいないと、できなかったこともある。たとえば菊栄は道に連れていかれて、初めて貧困層の現実を知ったんですよね」

 あとに続く誰かのために、ランタンの火を守り、手渡すこと。読むとその灯火が、読者の胸にも残るだろう。(ライター・矢内裕子)

AERA 2022年1月24日号

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