AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『らんたん』は、柚木麻子さんが恵泉女学園の創立者・河井道の姿を描いた「女子大河小説」。大正最後の年。天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児は、渡辺ゆりに求婚する。ゆりが出した結婚の条件は「シスターフッドの契りを結ぶ河井道と3人で暮らす」という前代未聞のものだった――というストーリー。新渡戸稲造、津田梅子、平塚らいてう、山川菊栄など、錚々たる人物と関わりながら、道は理想の女学校の創立をめざす。著者の柚木さんに、同著にかける思いを聞いた。
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「河井道(かわい・みち)は普通の人でした。津田梅子のような天才でも、平塚らいてうのように教科書に載るスターでもないけれど、多くの人に好かれました。類いまれな“人たらし”だったんでしょうね」
『らんたん』の主人公、恵泉女学園の創立者である河井道について、柚木麻子さん(40)はこう語る。ちなみに同校は柚木さんの母校でもある。
「海外で得た、最先端のジェンダー観や教養をわかりやすく人に伝えることができる、インフルエンサー的な能力が、道にはありました。河井道という人を魅力的に伝えたい。同時に、明治大正昭和という、今につながる時代に活躍した女性たちについて、わかりやすくて面白い本を書きたいと思ったんです」
さまざまな女性が登場する本作はまさに「女子大河小説」だ。史実をもとにしながら、物語ならではのダイナミズムがある。
また、当時の性的被害やDV、遊郭に売られる女性たちの貧困などについても柚木さんは目を向ける。道が、当時のベストセラー『不如帰(ほととぎす)』のモデルとされ、風評被害を受けた大山捨松のために、津田梅子と作者である徳冨蘆花に直談判に出向く場面もある。
「作品のために年表を作りながら、道を軸にすると近代のキーパーソンが一本につながることに気づきました。新渡戸稲造は道へのサポートを惜しまず、青鞜の女性たちの自伝にも道の名前が出てくる。柳原白蓮、村岡花子、有島武郎、ペンシルベニアに留学したときには野口英世と出会っています。私にとって、道を書くことは、近代という時代を知ることでもありました」