(AERA 2022年1月24日号より)
(AERA 2022年1月24日号より)

 一部を犠牲にすることで大多数が「結果」を手にできるなら、バッサリと切り捨てる。大多数の合理性こそが、中国で優先される価値観だ。

 人口問題との関係を指摘する声もある。過酷で均一的な競争社会の生きにくさに対する市民の意思は、人口の激減に表れた。中国の合計特殊出生率は、日本を下回る1.3。北京や上海などの大都市だけでなく、儒教的伝統が色濃く残る農村を含めた中国全土の数字としては、信じがたい低さだ。

 学習塾禁止令の背後には、政府の産業戦略があると指摘する声もある。

 世界各国で、国を凌駕する勢いで巨大化するIT企業。中国は、こうした企業の国営化や国有化を進めており、今回の塾禁止令もその一環ではないか、というのだ。実際、政府はこれまで塾が提供してきたインターネットを通じた家庭教師サービスと同様のサービスを、より安く提供しはじめている。米国で上場する「新東方」や「好未来」などの大手民営塾がとりわけ壊滅的な打撃を受けたことは、中国国内からのデータ流出を嫌い、米国上場企業を排除しようとする動きにも符合する。

 数千年変わらぬ古い農村社会の基盤の上に、世界一「圧縮」して成し遂げられた経済成長を重ね、さらに高度のIT社会に向かう中国。積年のゆがみと矛盾を抱えギリギリで巨体を回す中で、民営塾をつぶして国営塾を設立するという前代未聞の荒行は起きた。(ライター・北野ずん(北京))

AERA 2022年1月24日号より抜粋