25日、PCR検査センターの前には利用者の長い行列ができていた(大阪市中央区)
25日、PCR検査センターの前には利用者の長い行列ができていた(大阪市中央区)

 旅行医学などが専門のナビタスクリニックの久住英二医師は「これでは社会の活動が止まってしまう。この通知は世の中の流れと逆行する内容だ」と危惧する。

 最近の濃厚接触者の対応は社会機能を維持するために、自宅待機期間を短くする方向で動いてきた。例えば、医療関係者や学校関係者などエッセンシャルワーカーは、PCR検査を6日目に受けて、陰性が確認されれば、自宅待機が解除されるといったものだ。久住医師はこう指摘する。

「本来であれば、濃厚接触者も全員検査して、問題なければ仕事に戻ってもらうという対応をとるべき。いまコロナの疑いのある人を検査すると、だいたい半分は陰性です。臨床診断だけだと感染者や濃厚接触者数が倍増し、医療現場や学校などで働けない人が増え、あらゆる社会機能の低下を加速させる恐れがある。検査しないのはナンセンスですが、いま検査キットは在庫不足で、検査できない現状もある。これは明らかに政府の失敗。その失敗を隠すように、社会機能を低下させるような通知を出すのは、愚の骨頂です」

 自治体からも疑問の声が上がる。感染拡大が続く首都圏のある自治体担当者はこう語る。

「いきなりフォローアップセンターをつくっていいよ、と言われてもできません。通知には『自治体から有症状者に検査キットを配布する』などとありますが、無理ですよ。在庫がないのに、どうしろと言うんですかね。今回の通知はよくできていて、『本人が希望する場合には受診可能』ともなっている。つまり、急に容態が悪化して亡くなっても、受診しなかった人の自己責任ということです。政府はやることをやった、あとは自治体と個人の責任というためのアリバイ作りにも見える」

 官邸関係者もこう苦言を呈する。

「今回の通知は、医療ひっ迫でこの先どうにもならなくなることを想定して、政府として責任を回避するために事前に張った予防線そのものです。国民個人と自治体の責任で、政府の関知しないところで頑張れ、ということです。岸田首相は『聞く耳』を持って『柔軟に対応』などと言っていますが、『世論の批判回避に敏感』になり、『何でもあり』の状況になっています」

 現場ではすでに混乱が生じているが、オミクロンの感染拡大のピークは2月上旬とも言われる。岸田首相がこの難局をどう乗り切るのか問われている。

(AERAdot.編集部 吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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