目の前にあるのは、数十年にわたって建設残土や産業廃棄物が積み上げられてできた高さ30メートルほどの小山。長年の時をへて、山は緑に覆われている。
いったい、この山はどのようにできあがったのか? 撮影にあたって齋藤さんは周辺に住む人に聞いてみた。
「最初は、どこかで宅地開発をした際の残土が持ち込まれたようなんです。それが山のようになってくると、ごみを不法投棄する人がどんどんやってきた」
近隣住民はたまったものではない。問題が大きくなると、報道でもたびたび取り上げられた。
ただ、現場付近で働く人は「テレビで特集された後、いろんな人がやってきて迷惑した。もう勘弁してほしい」と、漏らす。
そんなわけで、場所の詳細は明かせないという。
山の土を少し掘ってみると、鉄の配管や、コンクリートの塊など、さまざまな廃棄物が出てきた。
「いまでも新しいごみが増え続けていて、ちょっと間隔を開けて訪れると、冷蔵庫や洗濯機が捨てられています」
■こんなに生態系が豊かな場所は珍しい
いわば「ごみの山」なのだが、齋藤さんは3年前、この緑の小山の正体を知ったとき、猛烈に感動したという。
「まったくの無から生まれた自然。もともと何もなかった場所に長い年月をかけて、植物が芽吹き、木々が生い茂った。これはすごい自然だな、と思ったんです」
実際、齋藤さんの作品を目にすると、ぼんやりと写った木々は、手入れがされていない雑木林のようも見え、とてもごみの山とは思えない。
「ここは山なんですけれど、水がたまったところもあって、結構、きれいなんです。タヌキを見たこともあります。調査した学者によると、『この地域でこんなに生態系が豊かなところは珍しい』という。取材中、警備員さんに『マムシにかまれるよ』と言われて、怖かったんですけど(笑)」
1月29日から東京・丸の内のエプサイトギャラリーで開催される「Physis」は、そんな「ごみの山」と「自然」をテーマにした異色の作品だ。