アフガニスタンから米軍が撤退し、20年ぶりにタリバンが政権を掌握。アフガンの女性たちの解放はどうなるか(写真:Anadolu
アフガニスタンから米軍が撤退し、20年ぶりにタリバンが政権を掌握。アフガンの女性たちの解放はどうなるか(写真:Anadolu Agency via gettyimages

 歴史家、人類学者のエマニュエル・トッド氏は、最新作のテーマに「女性の解放の歴史」を取り上げた。女性解放が進んだことで、現代社会にどんな影響を与えてきたのだろうか。ジャーナリストの大野博人氏がオンラインでトッド氏に聞いた。AERA 2022年1月31日号から。

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──本では、農耕・牧畜以前の野生の動植物を食料としていた狩猟採集民だったころの人類の家族の形を出発点として論を展開していますね。それは夫婦と子どもからなる核家族で、男女の分業はあったが平等だったと。

 西欧の家族の進化を理解するには、狩猟採集民の家族と比べる必要があります。その当時の形態に比較的近いまま残ってきたからです。

 世界各地の狩猟採集民の家族で、狩猟は男性の仕事でした。例外はごく限られています。そして採集は主に女性の仕事でした。男女の分業があったのです。

 狩猟と採集には大きな違いがあります。女性が採集した野菜や木の実などは、彼女とその家族の中にとどまりました。他方、夫たちの狩猟の獲物の肉は常にその地域の集団の中で分配されました。

 そこに注目すると、家族中心の個人主義的考え方の担い手は女性で、男性は自分が属する集団の組織を担う側となります。

 また、その家庭内の夫と妻の関係は平等でした。当時の人間にとっての一番の問題は、きびしい自然環境を生きのびること。だから男女は協力しなければならなかった。家族を支えたのは男女の連帯だったのです。

 今も、社会的、経済的に特権的ではない階層の人たちの男女関係は連帯的です。近年は、中流の階層の人も経済的に困難が増しています。

 フェミニズムの論客たちは男性支配を激しく批判し、女性殺しという言葉まで使います。でも、女性が殺害されるケースはフランスでは減り続けています。そして実際の中流の家族や夫婦の安定度は増しているのです。

 だって、今は中流でも生きていくには2人分の給料が必要ですから。男と女を敵対的に見るイデオロギーと裏腹に、経済的困難の中で、中流階級の男女は連帯する関係に進んでいます。

 たとえば英米メディアは、性について人類の新しい地平が開けつつあるかのように書きます。けれど読者たちは夫婦の収入で家庭を安定させ、子どもをいい学校に行かせようなどと考える。イデオロギーではなく現実を見なければ。

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