締め切りに追われながら「報道ステーション」テーマ曲のレコーディングに立ち会う坂東。細かいメモがびっしりと書き込まれた五線譜とパソコンを併用しながら演奏者に的確な指示を出す(撮影/伊ケ崎忍)
締め切りに追われながら「報道ステーション」テーマ曲のレコーディングに立ち会う坂東。細かいメモがびっしりと書き込まれた五線譜とパソコンを併用しながら演奏者に的確な指示を出す(撮影/伊ケ崎忍)

「表現する人って、自分が表現すべきはこれだってなりがちなんですけど、それと同時にインプットすることを止めてしまう人も多い。だけど彼は、いまだにインプットの量が半端ない。だからこそ、多方面で活躍することができるんだと思います」

つらかったピアノの練習
音楽は“勉強”するもの

 クラシックはもちろん、ジャズやブラックミュージックなど、広範な音楽知識と、映画などカルチャー全般にわたる情報を、日々インプットし続ける。そこには、“好きだから”だけでは片づけられない、坂東の作曲家としての矜持(きょうじ)がある。

「ひとりの作曲家として、自分が生きる“時代性”は、絶対に考えないといけないと思うんです。特に僕は、現代音楽の人間だから、余計そこには敏感になっておかないと。そうじゃないと、ますます社会との距離が遠くなってしまうから」

 ドラマや映画の劇伴の仕事で近年その名前を知られるようになった坂東だが、彼自身はあくまでも自分は、「現代音楽の作曲家」であるという。「現代音楽」は、西洋クラシック音楽の膨大な体系を踏まえながら、それを更新させていこうとする先端的な音楽だ。メロディーがなかったり、不協和音を用いたり、我々が持つ音楽の概念を覆されるものも多い。そんな現代音楽に軸足を置きながら、ドラマや映画の音楽を次々と書き上げ、ときには自ら演奏しコンサートも行う坂東は、どんな少年時代を過ごしてきたのだろうか。

 1991年、大阪で生まれた坂東は、大手量販店に勤める父親の仕事の都合で、愛知、富山、香川など、小学校4年の頃に埼玉に落ち着くまで、さまざまな場所を転々とする子どもだった。その中で鍛えられたのは、“観察する能力”だった。転校先の学校で、まずはその人間関係を観察すること。音楽に関することはもちろん、さまざまな物事をどこか俯瞰(ふかん)して見るところがあるのは、そんな幼少期のせいかもしれない。とはいえ、それがつらかったという記憶はない。それぞれの場所で、友だちを作ることもできた。むしろつらかったのは、母親のすすめで3歳の頃から始めたピアノの練習だった。

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