彼のパフォーマンスは、単に自分が有名になりたいからやっているのではない。ホームレス支援の一環として名を売ることで援助を集めるため、希望を見いだせない人たちにやればできると伝えるためだという。
今年1月に起こったトンガでの海底火山の大噴火に際しても、「大きな苦難の時こそトンガ人の真の精神が輝く」などとSNSで激励のメッセージを配信。さらにクラウドファンディングで6000万円近い寄付金を集めるなど、自身の知名度を生かした支援を行っている。
北京五輪に話題を戻すと、今回はハイチとサウジアラビアがアルペンスキーで冬季五輪に初出場する。男子大回転にハイチ代表として出るのは19歳のリチャードソン・ビアノ。ハイチで生まれ、その後にフランス在住のイタリア人家族の養子となった経歴の持ち主だ。残念ながらフランス代表にはなれなかったが、19年にハイチスキー連盟から同国代表として五輪出場を打診されたという。北京では冬季五輪のスキー競技に出場する初のカリブ海諸国出身選手となる。
サウジアラビアからも1名が参加予定。同国オリンピック委員会によると、湾岸諸国の代表が冬季五輪に参加するのは史上初の快挙だという。
ちなみにアルペンスキーにはジャマイカの選手も出場予定。ジャマイカ代表のベンジャミン・アレクサンダーはイギリス生まれだが、スキーを始めたのは7年前のこと。冒頭でも触れた『クールランニング』のモデルになったカルガリー五輪のボブスレー代表チームの一員だったダドリー・ストークスの指導を受けてきた。
アルペンスキー代表として冬季五輪にジャマイカから出場するのは、彼が初めて。師匠同様に歴史に名を刻むことになる。
熱帯からの挑戦者たちが五輪本番で好成績を収めてメダルを獲得するのは、確かに難しいかもしれない。だが彼らのチャレンジは決して無駄ではなく、現在はインド国内への冬季競技の普及を目指して活動しているケシャバンや、さまざまな支援活動を行っているタウファトファの存在、そしてジャマイカで受け継がれている冬季競技への情熱は、間違いなく未来への確かな一歩となっている。