見た目の印象は、近未来感のある電動キックボードといったところか。トヨタは昨年10月、3輪の立ち乗りモビリティー「C+walk T」(シーウォーク ティー)を発売した。「歩行をサポートする」がコンセプトで、最高時速は6キロ(熟練者向けに10キロのモードも)。
主なターゲットは、「歩けるが長く歩くのはつらい」シニア世代だ。街中で高齢者が乗る電動車いす「シニアカー」とは違って立ち乗りのため、同伴者と同じ目線で会話できたり景色が見やすかったりという利点がある。
開発において重視されたのはコンパクト性だ。横幅は人の肩幅と同じくらいで、前後幅は一歩の歩幅におさめた。すれ違った人が意識することなく、日常生活に溶け込むサイズ感だという。
操作はハンドル、アクセルレバー、ブレーキレバーが基本で、誰でもすぐに運転できる。急な下り坂や急ハンドルを検知して自動で減速したり、オプション機能だが障害物を検知したりと、安全を守る工夫もこらされている。
開発担当の谷中壮弘さんは、今後必要とされるモビリティーを考えるキーワードとして“高齢化”と“都市化”という二つの社会の流れを挙げた。
「高齢になると、狭い生活範囲の中で安全に、快適に暮らしたいニーズが生まれる。長距離を速く移動する自動車とは違う乗り物が求められるでしょう。また都市生活では公共交通が発達しますが、駅と駅の間や、駅と家の間は自分で移動しなければならない。公共交通を補完する乗り物、という視点も必要です」
しかし、C+walk Tは法規上、まだ公道で走ることはできない。現時点では、公園やテーマパーク内の移動や、警備など長時間歩きまわる労働現場での利用が想定されている。実証実験では、東京五輪とパラリンピックの警備に導入された。
現在、交通手段の多様化を見据えた警察庁主催の検討会で、今後C+walk Tがシニアカーと同様の扱いで公道走行できる可能性が浮上しているという。谷中さんは「みなさんの声をもとに、どんな場所でどういうルールで使っていくかを考え、役に立つ乗り物に育てたい」と意気込む。
モビリティーの分野からも、誰ひとり取り残さないバリアフリー社会への一歩が踏み出されようとしている。(本誌・大谷百合絵)
※週刊朝日 2022年2月11日号