当日の村上さん(右)と山下さん(TOKYO FM提供)
当日の村上さん(右)と山下さん(TOKYO FM提供)

 当日、満を持して大隈講堂に登場した山下洋輔(ピアノ)、中村誠一(サックス)、森山威男(ドラム)はのっけから全ての権威に抗(あらが)うような凄(すさ)まじい演奏を繰り広げた。音ひと粒ひと粒が何千、何万と集まって濁流となり聴き手をのみ込む。表現は美しい狂気で、それのみが受け手を揺さぶる。舞台を間近で覗(のぞ)くと山下トリオは手術室の外科医のように冷静に目配せし合い、呼吸を図って緻密(ちみつ)に音を送り出していた。

「かっけー! やばい! 男の子たちも興奮して大騒ぎしています」とスタッフが学生席をリポートし、客席の田原総一朗さんは手を振りながらのアジテーション。まさにフリーな空間が現出した。

 山下さんがアンコールに選んだ曲は「メモリー・イズ・ア・ファニー・シング」

「これは『ノルウェイの森』に出てくるフレーズです。その部分の英訳を調べたら、僕の曲“メモリー・イズ・ア・ファニー・シング”と同じだった!」と山下さん。「そんなフレーズ、書いたかなぁ」と春樹さんが頭をかくと、「書かれています。7ページに」と山下さんが返し、会場は温かな笑いに包まれた。

 一日が終わり僕は爽やかな抜け殻になった。夜、『ノルウェイの森』を開くと、「記憶というのはなんだか不思議なものだ」というフレーズが確かにあった。世界的ベストセラー『ノルウェイの森』は乱入ライブが行われた時代の物語だった。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2022年8月12日号

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