墜落して海底に沈む前の新鋭F-35Cステルス戦闘機。緊急脱出した操縦士はヘリコプターで救助された。甲板要員ら計7人が負傷したという(写真:米海軍提供)
墜落して海底に沈む前の新鋭F-35Cステルス戦闘機。緊急脱出した操縦士はヘリコプターで救助された。甲板要員ら計7人が負傷したという(写真:米海軍提供)

 にもかかわらず、アメリカは最新鋭F-35C戦闘機を含む70機の航空機をそれぞれ積載した原子力空母2隻と、それらを護衛する多数の巡洋艦と駆逐艦、それに姿を現さないものの1~2隻の攻撃原潜という大戦力を台湾近海に送り込んだ。中国側が「軍事的脅威を受けたためバシー海峡方面に航空戦力を展開した」と主張しても仕方がない状況を、アメリカ側が作り出したとみなさざるを得ない。

 なぜアメリカは中国側を挑発してでも台湾危機を騒ぎ立てようとするのか?

 アメリカは過去20年以上にわたり「テロとの戦い」に集中してきた。そのアメリカ軍が、先端技術を駆使した海洋戦力を持つ中国と軍事衝突した場合、核戦争に持ち込む以外に勝利できる自信を見いだせないのが現状だ。中国と通常兵器で互角に渡り合えるように海軍力や航空戦力を再編・強化するには、最も楽観的に見積もっても5年以上、おそらくは10年近くの年月が必要だ。

■米国の挑発が間違う時

 それまでの期間、これまでアメリカが手にしてきた覇権を失わないために、同盟国や友好国を駆り立て、中国の海洋侵出に対する「防波堤」を形成して時間稼ぎを図ろうとしているのである。

 一方の中国は、台湾併合においても中国伝統の基本軍事戦略の「戦わずして勝つ」に可能な限り従っていくと思われる。ただし、中国共産党の論理によると、あくまでも台湾は中華人民共和国の1省であり、台湾当局や軍は反乱分子になるので、対外戦争よりは軍事力行使に踏み切るハードルは低くなる。とはいえ、120%の成功を確信するまでは、台湾への直接的軍事攻撃はしないだろう。

 もし近未来に、中国軍による台湾侵攻(それは短期激烈戦争という形になると考えられる)が敢行されるとしたら、アメリカによる挑発行動が計算違いをした場合だと考えても差し支えない。

 北京冬季五輪後の今秋に共産党大会が予定されているとはいえ、「戦わずして勝つ」中国が、台湾侵攻を決断するには時期尚早である。しかしアメリカ当局は、習近平(シーチンピン)政権に揺さぶりをかけるため、ますます台湾危機を煽(あお)ることは間違いない。そのための手駒として最も使い勝手がよいのが、米国の軍事力に頼り切っている日本政府、そして自衛隊であることはいうまでもない。(軍事社会学者・北村淳)

AERA 2022年2月14日号

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼