高木美帆はスピードスケート女子1500メートルで2大会連続の銀メダル。「今回はメダルが取れたことよりも、金メダルを逃した悔しさが強い」
高木美帆はスピードスケート女子1500メートルで2大会連続の銀メダル。「今回はメダルが取れたことよりも、金メダルを逃した悔しさが強い」

 高校卒業後は監督兼選手の葛西がいる土屋ホームに入社。同社にスキー部を作った元社長の川本謙さん(72)は言う。

「ここ数年技術面だけでなく精神面でも成長し、本人が『ゾーンに入れる』と言っていたとおり、落ち着いて試合に臨めていた。入社当時は会話の反応も遅く、競技への姿勢もまだまだで注意したこともありましたが、金メダルの後のインタビューにもしっかり答え、混合団体での(高梨)沙羅さんへの温かい対応など、オリンピックで人間的にも成長した姿を見せてくれた」

 7日のスピードスケート女子1500メートルでは、今大会の日本選手団主将・高木美帆(27)が2大会連続の銀メダルを獲得した。前回の平昌五輪で同種目のほか、女子団体追い抜きで金、女子1000メートルで銅と3色すべてのメダルを手にしている。これで五輪通算メダル数は、冬季五輪の日本勢単独最多の4となった。

■勝敗を分けた爆発力

 だが、レース後、笑顔はなかった。

「率直な気持ちは、やっぱり悔しいというか。その思いだけだなと思っています」

 本命種目だった。19年のW杯ソルトレーク大会では1分49秒83の世界新記録を出した。従来のタイムを1秒02も更新し、初めて1分50秒の壁を破った。今季のW杯でも3戦3勝。だが、今回は1分53秒72で、五輪新記録を出したイレイン・ブスト(オランダ)に0秒44及ばなかった。

 金と銀。勝敗を分けたのは何か。94年リレハンメル五輪のスピードスケート男子500メートル銅メダリスト、堀井学さん(49)は「このレース一本にかける爆発力」だと分析する。

AERA2月21日号から
AERA2月21日号から

 高木美は、最初の300メートルは出場30選手で最も速い25秒10で通過。1100メートル地点では両者は0秒03差とほぼ並んでいた。だが、ラスト1周(400メートル)のラップタイムは高木美が0秒41遅かった。堀井さんは、最後の直線でのフォームに注目する。

「ブスト選手は両手を体の後ろで組むバックハンドで、高木美帆選手は両手を振るフリーハンドでした。腕を振るのは推進力を生み出す目的もありますが、軸がぶれてしまうリスクもあります。ラストの直線で両腕を振り始めたとき、一瞬上体が浮き、バランスを崩しました。力が分散され、氷に伝える力も弱まった。ブスト選手は手を振らないことで空気抵抗も少なく、体力を温存でき、最後まで爆発力のある滑りを見せました」

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