男子ノーマルヒルで金メダルに輝いた小林陵侑(中)は、真っ先に駆けつけた兄・潤志郎(左)と中村直幹に担がれ、喜びを爆発させた
男子ノーマルヒルで金メダルに輝いた小林陵侑(中)は、真っ先に駆けつけた兄・潤志郎(左)と中村直幹に担がれ、喜びを爆発させた
この記事の写真をすべて見る

 スキー・ジャンプで小林陵侑が金メダルに、スピードスケートでは高木美帆が銀メダルを獲得するなど日本勢はメダルラッシュに沸く。その運動能力を専門家がそれぞれ分析する。AERA2022年2月21日号の記事を紹介する。

【図版】スパコン「富岳」が解析した小林陵侑と葛西紀明とのジャンプ姿勢の違い!

*  *  *

 スキー・ジャンプ男子ノーマルヒルでは小林陵侑(りょうゆう)(25)が大ジャンプで頂点に立った。ジャンプ日本勢の金メダルは、1998年長野五輪ラージヒルの船木和喜(46)以来24年ぶり。12日のラージヒルでは銀メダル。14日には男子団体も控える。

 6日のノーマルヒル決勝1回目。不利とされる追い風の中、ヒルサイズの106メートルに迫る104.5メートルのジャンプで首位に立った。決勝2回目は99.5メートル。着地後、駆け寄った兄・潤志郎(30)らと喜びを爆発させた。

「2本ともいいジャンプをそろえられたのですごくうれしい」

 小林陵は2018~19年シーズンに欧州勢以外では初となるワールドカップ(W杯)個人総合優勝を果たした。W杯ではこれまでに日本男子最多の通算26勝を挙げている。

「私たちの常識を飛び越えるジャンプです」

 運動力学が専門で、スキー・ジャンプを研究している北翔大学の山本敬三教授は、小林陵のジャンプについてそう話す。

 理化学研究所チームリーダーの坪倉誠・神戸大学教授(流体工学)とともに、理化学研究所が開発した世界一の計算速度を誇るスーパーコンピューター「富岳」で小林陵の飛行を解析。二つの大きな特徴が分かった。

小林陵侑のジャンプと葛西紀明との姿勢の違い(北翔大学、神戸大学、理化学研究所提供)
小林陵侑のジャンプと葛西紀明との姿勢の違い(北翔大学、神戸大学、理化学研究所提供)
小林陵は別の選手と比べて背面の気流の乱れも少ない(北翔大学、神戸大学、理化学研究所提供)
小林陵は別の選手と比べて背面の気流の乱れも少ない(北翔大学、神戸大学、理化学研究所提供)

 一つ目はテイクオフ(飛び出し)の姿勢。スピードが速いほど遠くに飛べることから、抗力(空気抵抗)を減らすために葛西紀明(49)ら多くの選手は飛び出し時に腰を曲げて上半身の起き上がりを抑える姿勢になる。体をピンと起こして飛び出す小林陵の姿勢は不利とされ、関係者の間でも「なんであんなに飛べるのか」と不思議がられてきたという。今回計測したデータでも飛び出し直後に抗力が上がることが確認された。だが、小林陵は飛行姿勢への移行が早く、抗力はすぐに減少に転じる。

次のページ