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木原さんは第1回ふげん社写真賞グランプリ受賞作「いくつかある光の」のなかで、東北地方に住む、ある女性を撮影した。
その写真をめくるたびに、胸がしめつけられるような、苦しい気持ちになった。いずれおとずれる別れの予感。そんな切なさが作品からあふれ出ていた。
■恋人との2年半を写した前作
インタビューの冒頭、木原さんは、こう語った。
「今回、興味深かったのは、この作品をいろいろな人に見てもらったとき、『この被写体の人のことを好きじゃなかったんですか?』みたいに、私の感情を確認されることが多かったんです」
そんな質問にはこう答えた
「いいえ、好きじゃないです」
しかし、心情としては複雑だったという。
「撮らせていただいた方なのに、ちょっと自分はひどいというか、シュールな受け答えだなと思いましたね。もちろん、女性のことが『きらい』というわけではありません。『恋人の関係』ではない、という意味です」
そんなナイーブな質問が多かった背景には、恋人との2年半を写した前作「それは、愛?」(2017年)があるという。
「質問した人は、今回もそういう人を撮ったのかなって、思ったんですね」
そう言うと、木原さんは、こう漏らした。
「やっぱり、多くの人は、恋人との関係とか、分かりやすい物語が好きじゃないですか」
その発言には少しトゲが感じられた。しかし、そんな「もやもや」が、木原さんが作家活動を本格的に始めるきっかけとなり、今回の作品づくりにもつながった。
「17年に写真展を開いたとき、見に来てくれたみなさんがそれぞれ、自分のストーリーを作品に重ねて、共感してくれたことが伝わってきたんです。泣いている人もいた。でも、写したのが恋人じゃなかったら、作品の見え方は変わってしまうのかな? と思うと、心に引っかかるものがあった」
■独学で学んだ写真がほめられた
恋人のフィルターなしに自分の作品を見たら、どう評価するのか? 気になった木原さんは、何の説明もつけずに作品を「塩竈フォトフェスティバル2018」(宮城県塩竈市)に応募。すると、1次選考を通過した。
2次選考の公開ポートフォリオレビューの際、初めて作品の内容を説明した。
講評者の1人、写真家・鈴木理策さんは「対峙するのが、めっちゃコワ、と思うくらいの雰囲気で、かなりドキドキしたんです。ところが、『こっちを見てくれてるだけで嬉しいって気持ちが溢れてるよね』って。そんなふうに言ってもらえたのが、とってもうれしくて。それで、よくも悪くも写真作家の道にはまり込んだ(笑)」。