政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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華々しい北京五輪の勢いに乗るように見える中国ですが、構造的な問題と弱みを抱えています。一帯一路政策の進展は滞り、中国語や中国文化を広めるための教育機関である孔子学院もうまくいっているとはいいがたい状況です。
そもそも超大国の条件は、(1)大きな人口規模(2)それに対応できる地下資源やエネルギー、食料自給率(3)強力な軍事力、経済力を支えるテクノロジーの蓄積(4)モラルパワーを持っていることです。モラルパワーは文化的なヘゲモニーと関連しています。いまの中国は、かつての旧ソ連や米国と比べても、イデオロギーや大衆文化、文化的な感化力で、中国を模範と仰ぐようなヘゲモニーを構築できているとは言えません。
今回の五輪開会式は、そうした中国の弱点を補う一大国家的なイベントなのでしょう。でも、ハイテクと多民族、多文化国家、悠久の歴史をミックスしたスペクタクルが、果たしてどこまで世界にアピールできたのか、評価も分かれるはずです。
中国の人口は14億と言われています。ただ一人っ子政策を緩和しているとはいえ、労働生産人口の減少は中国の発展に暗い影を投じつつあります。しかも食料自給率も日本より高いとはいえ、低下傾向にあります。エネルギーにしても米国ほど自給率は高くはなく、何よりも石炭が圧倒的な割合を占め、米国のシェールガスのような地下資源にも恵まれていません。