2002年に記念すべき第一弾として放送されたホットペッパーのCM「たべました篇」(写真:春企画東京)
2002年に記念すべき第一弾として放送されたホットペッパーのCM「たべました篇」(写真:春企画東京)

 記念すべき第一弾として放送された「たべました編」は、車の中で行われる外国人カップルの会話劇だ。男性の口にまわりに血のようなものがついていて、それを女性が拭き取る。映像だけを見れば、男性が殴り合いの喧嘩でもしてきたかのように見えるが…。

女:スパゲッティ食べたでしょ?
男:食べてないよ!
女:ケチャップついてるやん。
男:(ハンドルを叩きながら…)食べました!
女:私のクーポン券使って?
男:使った…ような気がします。クーポンマガジンのホットペッパー。

 映像からはまったく想像もつかないセリフの展開だが、口の動きや表情などから「なんだかそう言ってるようにも見える」のが面白さのポイントなのだという。「ちょっと無駄なニュアンスを入れる」「あえて上手にしゃべらない」など、山崎さんなりのコツはあるようだが、理屈はなく、ほとんど感覚でやっているという。

「『たべました編』のアフレコは、800テイク以上は収録しました。もうバカみたいですよね(笑)。編集した映像を何回も見て、ひたすら思いつくことを喋って、良い一言を何とかすくい上げる。男性の口についている血のりを「ケチャップ」って言いかえるまでにかなり時間がかかったのを覚えています。ちなみに、音楽家のピアノ伴奏に合わせて一人の男性が緊張気味に歌を歌い始めるという『まだ伴奏編』では3週間もかかりましたね。収録中は正直楽しくも何ともない(笑)」

 アフレコ収録は毎回大変だったようだが、その他の作業も「かなりしんどかった」と話す。実は、CMに使われている映像は、実際に存在する古い映画から抜粋したものではなく、ほとんどがCM用に撮影したものだという。さらに、撮影中はまだアフレコのセリフは確定していないため、それぞれのカットをいったい何秒使うのかも分からない。いつも撮影は手探りの状態だったという。

「セリフを撮影前の段階からしっかり決めておけばもっと楽なんでしょうけど、それだと良いセリフって出てこない。撮影してきた素材を見ながら、本能的に、生理的に出てきた言葉のほうがやはり力強いんです」

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CMに必要なのは「違和感と異物感」