「CASの根拠は苦しいですね。これでは16歳以上と16歳未満の選手が違うルールで同じ競技をやっているということになってしまう。ただ、16歳未満の『制裁の緩和』というのは、私もあっていいと思いますが、たとえば出場停止処分の期間を短くするという話ならわかります。出場をスンナリ認めてしまうというのは『制裁の緩和』というレベルを超えていると思います」
ワリエワの問題は今後の検証を待つとして、なぜドーピング違反は繰り返されるのか。ロシアは組織的なドーピング問題の制裁措置を受け、五輪は3大会連続でロシア代表を名乗れず、ドーピング違反歴がないなどのクリーンな選手がROCとして、五輪に参加してきた。
「過去のドーピング違反の事例においても、ロシアのケースでは亡命をし、『私は国家的ドーピングを強要された』と声明したアスリートもいました。一言でドーピングと言っても、合意のもとでさせるケースもあれば、知らずに飲食物に入れられているというケースもあるんです」
旧東ドイツでは『これはパワーアップするジュースだよ』と言われ、アスリートが禁止物質を飲まされていたこともあったそうだ。
「その後に健康被害が出た。それは裁判を通して明らかになりました」
数年前には日本でもドーピング違反に関する衝撃的な事件があった。ある選手がライバルの飲み物に“盛り”、違反にさせたのだ。代表の座をめぐり、若手の台頭に悩んだ末の犯行だったという。
「禁止物質というのは、ものすごい種類があるんですよ。それをたとえば夕食に入れてしまえば、知らずに食べてしまうこともありえます」
逆に、薬物を熟知していれば、大会期間中にはドーピングにひっかからないように対策もできる。
「アメリカの自転車競技の選手のケースが有名です。大会の時には禁止物質がスッと消えるように調整していた。自分一人では無理なので、医師がバックアップしていたとされています。WADAや日本アンチ・ドーピング機構(JAD)は、アスリート側で調整できないように、抜き打ち検査を実施しているんですよね。ドーピング検査をする側とされる側での駆け引きはけっこうすごいですよ」
アスリートが家で食事をしていて、突然、検査員がやってきて、血液や尿の検査を抜き打ちでもやっているという。