■「車より速い速度で」

 芳賀・宇都宮LRTも課題が指摘される。LRTは乗り降りの際の段差がほとんどなく騒音や振動が少ないなど、人と環境に優しい都市交通として注目されている。同LRTも、慢性的渋滞に悩まされる宇都宮市東部を走り、1日当たりの利用者は約1万6千人を見込む。しかし、想定どおりマイカーからの乗り換えが進むか不透明だ。鉄道アナリストの川島令三さんは言う。

「ポイントは、いかに自動車と差別化できるかです。そのためには、車より速い速度で移動できるかが大事。現在、LRTの最高速度は法律に基づき時速40キロと制限されているが、自動車と一緒に走る路面区間はともかく、LRT専用軌道では70キロ近く出したほうがいい」

 同LRTを運行する宇都宮ライトレールの担当者は説明する。

「車両設計上は70キロでの走行が可能です。利用者の利便性を考え、将来的には安全な区間での70キロでの走行も各機関と調整しながら検討したい」

■空港に行く本源的需要

 後藤教授は、鉄道など公共交通整備で重要な視点は派生需要と本源的需要だと指摘する。

「基本的に鉄道は乗るためにつくるのでなく、目的地に移動する手段として派生的に、つまり派生需要として生まれます」

 それに対し、移動する目的自体が本源的需要だ。例えば、羽田空港アクセス線やなにわ筋線は、羽田空港や関西空港に行くための派生需要を満たすためにつくられるが、空港に行くという本源的需要、つまり目的がある。後藤教授は、両線の利用者は伸びる可能性が高いと見る。

「鉄道は新しく路線をつくるだけでは意味がありません。移動目的である本源的需要をしっかりつくりだすことが大切。人口減となり鉄道の利用者も減る中、本源的需要をどうつくり出すかが、より一層、重要になってきます」

 求められる鉄道は何か。地方も都市も、新たな発想で考える時期に来ている。(編集部・野村昌二)

AERA 2022年8月8日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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