東映アニメにとって、ワンピースは看板作品の一つでもある。
「そこにサンライズという制作会社のにおいが強い私を起用するわけで、いじめられるかな、なんて思いました(笑)。でも、既存のシステムでやったほうが楽なのに、一度立ち止まろうとしたのはプロデューサーが有能だということでもあります」
どれを維持して、何を変えるかを考えた。キャスティングはそのままなので、音響絡みの変更はなし。美術や色彩などにはスタッフを加えるなど、新しい血を入れた。
■変わらない「根っこ」
“新しさ”を期待された谷口監督だが、こんな反省もある。
「尾田さんに優しすぎたかもしれないな、と思っているんです。最初に出会ったとき、尾田栄一郎という人は世間に知られていないし、私も監督デビューがワンピースだから、谷口なんて誰も知らない。だから、昔から尾田さんを知っている人間としては、彼の要望は『わかった、聞いてやるよ』と許しちゃう部分があるんです」
最終的な作品の責任を負う監督としては、正しくない姿だとも感じている。それでも、尾田さんがどんな努力を積み重ねて、何を捨てて今にたどり着いたのかが想像できるから、手助けしたくなるのだという。
「あれから立場や境遇もずいぶん変化しました。私と尾田さんは、作品作りのスタンスも違います。でも、今回一緒にやって、人間の根っこが変わるわけではないとも感じました」
漫画家・尾田栄一郎の根っことは何か。
「とてもクレバーな人で、自分の人生や生き方、ポジションを客観的に見ているんです。だから、絶対にあのレベルが崩れないし、そのために自分を律する気持ちがとても強い。やっぱり人間の根っこが変わると、ワンピースも変わってしまうと思うから、そこは持続していてよかった。あとは職業柄、自宅にこもっていることが多いけれど、根は陽キャラというか。わーっと外に出て遊びたいし、一緒に肉を食ったら仲良しさ!みたいな。そこは24年前と変わらないですね」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2022年8月8日号より抜粋