トランプ前米大統領がNATOに対する自国のコミットメントを少なくしたのも、ロシアとの関係を修復しようとしたのも、対中関係を睨(にら)んだからでしょう。バイデン政権も、クアッドをはじめとする様々な事実上の同盟関係の組み合わせをすることで、総力戦で中国と当たろうとしていました。ですが、米国は軍事的なリソースを欧州に割かざるを得なくなりました。
ロシア産天然ガスのEU諸国への販路が断たれた場合、最大の消費国に中国がなる可能性があります。そうなればロシアは間違いなく中国に経済的に依存せざるを得なくなります。ロシアがより中国の傘下に入っていき、これまで以上に同盟関係に近いようにまでなるかもしれません。
北京五輪前の中ロ首脳会談は、ロシアが中国に依存せざるを得ないことの一つの表れだったとも言えます。今後、北朝鮮もロシアの様子しだいで、より中国に引き寄せられていきかねません。そういう意味でも、米国はできるだけ早く対中国にシフトしないといけないのです。それが、ロシアの侵攻によってますます遠のきました。
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2022年3月7日号
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