![姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史](https://aeradot.ismcdn.jp/mwimgs/2/8/443mw/img_2808438048e4e2bab6ea6fa94e2c7a2327885.jpg)
政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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ついにロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事作戦を決行しました。米欧各国は「(公開情報を分析する)オープンソース・インテリジェンス」の手法により、軍事侵攻を予測していました。ロシアはその予測に沿った行動を取った段階で、情報戦に負けたということの証左になります。「ウクライナ政権によって虐げられた人々の保護が目的」という名目ではあるにしても、それにやすやすとプーチン大統領が乗った、ということになります。
今回の軍事行動は、深刻な持久戦になる可能性があります。今の段階でこそ、NATO(北大西洋条約機構)は一つにまとまっていますが、持久戦になれば足並みは乱れるでしょう。そうなったときに喜ぶのはどこか。それは間違いなく中国です。
湾岸戦争後、泥沼のような地域紛争の中であえぎ続けてきた米国をよそに、中国は着々と近代化政策を遂げました。つまり冷戦崩壊以降、最大の勝者は中国だったわけです。それに気づいた米国は、中央アジアから中近東の店じまいをしたのです。