首相にズバッと切り込んできたジャーナリスト、田原総一朗氏の「宰相の『通信簿』」は今回、小泉純一郎氏。“劇場型政治”“ワンフレーズ・ポリティクス”などと評されながら高い支持率を誇った。政権誕生に至った秘話とは。(一部敬称略)
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森喜朗首相の失脚後、自民党はどうしようとしていたか。実は当時、森側近の中川秀直から連絡があった。「田原さん、ちょっと飯を食いたい」と。
東京都内にある料理店の2階の座敷で中川と向き合った。同じ派閥の小泉純一郎が総裁選に立候補しようとしている、という。以前も2回出て惨敗。今度負けたら政治生命が終わってしまう。「どうすればいいと思う?」と聞かれた。
そこで僕は「これまで自民党の総理大臣はほとんど田中派出身か、田中派の全面応援を受けなきゃいけなかった。もしも小泉が公然と『田中派と真っ向から喧嘩(けんか)する』『田中派をぶっ潰す』と言うなら支持する」と言った。
中川が「ちょっと待って……」と言うと、階下から小泉本人が上がってきた。「目の前で言ってほしい」と中川に促され、さっきと同じことを小泉に伝えた。「だけど、それを言ったらあなたの政治生命は危険にさらされる」とも付け加えた。そうしたら何と、小泉は「殺されてもやる」と言ったんだよね。
実際、総裁選になったら「田中派をぶっ潰す」と言っても一般の人にはわかりにくいから、「自民党をぶっ壊す」と訴えた。これで人気が出た。
2001年の総裁選には、橋本龍太郎と麻生太郎、亀井静香も名乗りを上げた。再登板を狙う橋本はまさに田中派のど真ん中で育ち、田中派の流れをくむ橋本派(現平成研究会)を率いていた。最終的に亀井のグループが味方をすると、橋本が優勢となる。そこで僕は、小泉を支える中川や安倍晋三らに、亀井を口説くようにアドバイスした。亀井は人がいいから、懸命に口説けば、協力を得られる可能性がある。
「もしも小泉の味方をしてくれたら、100%あなたの言うことを聞く。だから小泉が首相になったらあなたが首相になったようなものだ」などと説得してはどうかとね。おそらく彼らは、そんなふうに口説いたんだと思う。亀井がこれを受け入れて本選を辞退し、小泉が首相になった。