その理由は、小泉が「郵政民営化」をやろうとしている、ということだった。竹中自身はその時、民営化の必要がないと思っていたため、担当大臣を打診されて悩んでいたようだ。僕は「断ればいいじゃないか」と言ったが、そう簡単なことではなかった。小泉は頑固だから、郵政民営化と言ったら何としてもやるだろうと。他の人間が担当大臣をやってもうまくいかないことも、竹中は感じていたのね。

 彼は数週間、民営化する理由を改めて考え、担当大臣を引き受けた。後に副大臣に就いたのが菅義偉(前首相)だった。

 自民党には郵政民営化法案に反対の議員が多かった。この反対を抑え込んだのは小泉と菅。小泉は強引で、民営化に反対する者は除名するとまで言いだした。そして菅の根回しもあって、衆議院は僅差(きんさ)で可決された。

 しかし、参議院で採決したら、絶対に否決となる情勢だった。そこで小泉の出身派閥の領袖で政権を支える森が、小泉に「継続審議にしよう」と提案した。継続審議にして時間をかけて、何とか郵政民営化を実現しようじゃないかと。そうしたら小泉が「いや、採決する」と言い張った。森が「否決されたらどうするんだ」と聞くと、「衆議院を解散する」と答えた。「あなたはいったい郵政民営化をしたいのか、それとも衆議院を解散したいのか」と、森は問いただしたそうだ。

◆主張明快で魅力、近年は“反原発”

 小泉は「絶対に採決をしたい。筋を通したい」と言って、譲らなかった。森から電話がかかってきたのはそんな時だった。「こんなことをやったら絶対に自民党は惨敗する」と。そして、参議院の採決前日の日曜日、僕がやっていたテレビ朝日系の番組「サンデープロジェクト」にも出演したいという。実際、番組に出て小泉のことをこてんぱんに言うわけね。かりにも、森は前首相だった人よ。

 けれども翌日、05年8月8日。参議院で否決され、小泉は言っていたとおり、衆議院を解散した。そして何と、この選挙で勝利してしまった。「勝っちゃったよね……」と森も驚いていた。

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