小泉はね、やっぱりそういう時の演説がうまいのね。自分は郵政の民営化に命を懸けたい、と。かつてイタリアの天文学者のガリレオ・ガリレイという男がいた。当時は地球の周りを太陽が回っているという「天動説」が常識だった。
ガリレオは、そうじゃない、太陽の周りを地球が回っているんだ、と「地動説」を唱えた。“異端”とされながらも命を懸けて言い切った。このガリレオを見習う、自分も命を懸けて絶対にやると。この演説に、国民の多くが賛同して勝っちゃったのね。
小泉内閣で大きい出来事の一つが、イラク戦争をめぐる対応だった。フセイン大統領が勝手気ままにやっているとして、米国がフセインを潰して中東の安定化を図ろうとした。米国はブッシュ大統領ね。
イラク戦争に対して、ドイツやフランスは反対した。英国は賛成だったけど、国内で大きなデモが起きた。日本の小泉はイラク戦争に賛成した。僕は当時、小泉に会って、「何で賛成なのか」と聞いた。すると小泉は「日米同盟で日本はアメリカの言うことに『ノー』と言える力がない」と話した。
「だけど、自衛隊がイラクに行ったら危ないじゃないか」と僕は詰め寄った。「いや、田原さん、大丈夫。自衛隊は現地に行くけど、戦わない。水を汲みに行くようなものだ」と説明した。
小泉は、絶対に日米同盟を持続しないといけない。イラク戦争に反対したら同盟関係が破綻(はたん)する。だから、ブッシュとの関係を重視し、仲がよかった。
小泉は「イエス」「ノー」が極めてはっきりしていた。あんなにはっきりしていた首相は珍しい。振り返ってみても、田中角栄、中曽根康弘、小泉くらいだろうね。主張が明快だったから、魅力があったんだと思う。
加えて、小泉はマネースキャンダルが全くなかった。その透明性も支持されて長期政権となった。近年は、すっかり“反原発”主義者だね。日本は原発がなくても十分やっていける、と訴えている。反原発を語らせたら、本当に説得力がある。
(構成/週刊朝日編集部)
*次回は鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦の予定です
※週刊朝日 2022年3月11日号