撮影:野村恵子
撮影:野村恵子

■街は変わり、人は歳をとり、亡くなる

 これまで野村さんは、「何のために撮るんだろう」と、自問してきた。そして、こう思うようになった。

「時間が過ぎ去っていくなかで、やっぱり残したいっていう気持ちがある。写真を撮ることで、そのときを瞬間凍結して残せるんじゃないか、って。だから、『あっ、いいな。記憶に残しておこう』という身近なものしか撮っていないかもしれない」

 しかし、20代後半、「Deep South」を撮影したときは、そんなことは考えもしなかった。

「あのとき、沖縄県中部のコザという街に部屋を借りて、同世代の子たちを撮ったんです。ところが、再開発が進み、街が様変わりしてしまった。作品に写った9割方の風景はもう残ってない。当時、撮った子たちは、みんないい歳になっている。いま、作品を見返すと、そのときしかなかったものなんだなあ、って、つくづく思うんです」

 今回の作品に写るヌードや着物の女性は、撮影を始めてから20年以上になる。

「またしても、ヌードが多いんです。ははは。この方は17歳のときから撮っています。他のみなさんも40を超えている。今回は身近な人を作品に入れているので、自然な笑顔が増えました」

 その1人が沖縄民謡歌手の大城美佐子さん。紫の着物姿で海辺に立ち、三線(さんしん)を奏でている。「イメージが強くて、彼女自身が作品みたいな方だった」。しかし、昨年1月、世を去った。

「実は今回、亡くなった人が2人、作品に入っています」

撮影:野村恵子
撮影:野村恵子

■人の魂はかたちを変え、まわっている

 作品のタイトルを『Moon on the Water』に決め、友人に伝えると「『また?』って、言われました(笑)。『月とか水とか、好きだね』って」。

 しかし、最初からそうだったわけではない。初期の作品「Deep South」には海の写真はほとんどない。

 自然風景、特に水辺の景色が作品の軸になり始めるのは「Bloody Moon」(02年)や「Red Water」(09年)以降だ。そこに野村さんの内面の変化を感じる。

「水というのは、形を変えて循環している。森を流れ、海に注ぎ、空をまわっている」。それが人の魂のイメージと重なるという。人は死んだ後、入れ物(生物)を変え、来世に行くという、仏教の「輪廻転生」の教え。

「海も、空も、人も、全部イメージをつないでいます。クジラも」

 それは作品であると同時に、野村さんの親しい人との思い出をつづったアルバムを開き見るような気がした。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】野村恵子写真展「Moon on the Water」
コミュニケーションギャラリー ふげん社 3月10日~4月3日

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