ところが、戦争が始まると事態は一変した。国外脱出をすすめる声もあるなか首都キエフにとどまり、自撮りの動画で「私はここにいる。武器を捨てるつもりはない。領土を、国を、子どもたちを守る」と国民を鼓舞。支持率は91%に急上昇した。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は言う。
「指導力を前面に出すだけでなく、時に死の覚悟を語って共感を集める。非常時の情報発信力は見事だと思います」
質量ともにロシア軍より戦力が劣るなか、ウクライナは耐え続けている。黒井氏は言う。
「ジャベリンやNLAWといった歩兵携帯式の対戦車ミサイルが活躍していて、東部ではロシア軍装甲車を多数撃破している。森林に隠れながら、歩兵がロシア軍の隊列に近づき、1~2キロ先からミサイルで撃破することが多い。ただ、今後はロシア軍が態勢を立て直し、ウクライナの都市を制圧する場面が増えるでしょう」
プーチン氏の暴走を止められるのか。ロシア情勢に詳しいJAROS21世紀フォーラムの服部年伸氏は言う。
「ロシア国内では、石油大手の企業や銀行などからも戦争反対の声が出始めました。プーチン氏の戦略にも陰りが見えます。元ソ連大統領のゴルバチョフ氏は『欧州共通の家』を理想に掲げていました。ロシアはそこに立ち返り、EUに加盟するぐらいの政策転換をしなければ、世界から孤立した国になってしまいます」
停戦協議は停滞し、戦争長期化の懸念も高まる。前出の山添氏は言う。
「プーチン氏の暴挙によって、力で現状を変更することが許される世界が身近に迫っています。それをウクライナの人々は命を懸けて阻止しようとしている。また、台湾統一を悲願とする中国は、プーチン氏が今後どうなるかを見ている。日本にとっても、遠い国の出来事ではありません」
今、世界は歴史の転換点を迎えている。(本誌・西岡千史、村上新太郎、佐賀旭)
※週刊朝日 2022年3月18日号