多くの犠牲者を出しているロシアによるウクライナ侵攻。民間人をも標的にする暴挙に出たプーチン大統領は、いったい何を考えているのか。劣勢ながら粘るウクライナのゼレンスキー大統領に勝算はあるのか。緊迫の情勢を分析した。
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「いかなる状況でも軍事作戦の目的を達成する」
ロシアのプーチン大統領は3月3日、フランスのマクロン大統領との電話会談でこう言い放った。
民間人を狙った攻撃を繰り返し、核攻撃をもちらつかせる。4日には、ウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所を攻撃後、占拠。度を越えた暴挙に、米国のバイデン大統領はプーチン氏の精神分析を米情報機関の最優先課題にしたと報道されている。防衛研究所の山添博史主任研究官はこう話す。
「原発占拠には政治的な狙いもあったはず。たとえば『ウクライナによる核兵器開発の証拠が出てきた』と主張して軍事侵攻を正当化し、破壊手段を激しくするなどです。プーチン氏の一連の決断は非合理的に見える部分も多いが、交渉を優位に進めるためにあえて常軌を逸したふうを装い、冷徹に利益を計算している可能性もあります」
2000年に大統領に就任したプーチン氏は、20年以上にわたってロシアを支配してきた。日本の公安関係者が言う。
「事実上の独裁者であり、莫大な隠し財産を持つ『陰の世界一の富豪』。米上院司法委員会ではプーチンの隠し財産は約23兆円にのぼるとの証言もあった。刑事上や行政上の責任を生涯問われない特権も保障されており、歯止めが利かない」
20年には英国紙が、プーチン氏はパーキンソン病で、家族が辞任をすすめたという記事を掲載したこともあるが、権力が揺らぐことはなかった。
意思決定は少人数で行い、自らと同じ旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身の人間を信頼する。プーチン氏に近いと言われるのは、パトルシェフ安全保障会議書記、ショイグ国防相、ボルトニコフ連邦保安局長官、ナルイシキン対外情報庁長官の4人。そのうち、ショイグ氏を除く3人はKGB出身だ。ロシアでは治安・国防関係の職員やOBは「シロビキ(力の組織)」と呼ばれ、政治・経済に強い影響力を持つ。